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【借主向け】賃貸物件の立ち退き料の目安・「相場」と考慮要素|もらえないケース等も解説

コラム/[更新日]2024年8月27日

賃貸物件に住んだり、賃貸物件で店舗を経営したりしている入居者が、大家から立ち退きを求められるケースは決して少なくありません。こういった場合には、立ち退きを求められた入居者には立ち退き料が支払われることがあります。

この立ち退き料の額は、物件の利用方法によって大きく異なります。また、立ち退きの理由によっては、立ち退き料自体が支払われないこともあります。

では、どのような理由による立ち退きであれば、立ち退き料が支払われるのでしょうか。

本記事では、賃貸物件からの立ち退きで立ち退き料を受け取れる可能性があるケースについて、詳しく解説します。

 

賃貸物件で立ち退きを求められるケース

まずは、賃貸物件で立ち退きを求められるケースにはどのようなものがあるか確認していきましょう。

賃貸物件からの立ち退きを求められ、立ち退き料が支払われる主なケースとしては、次のようなものが考えられます。

・大家都合・オーナーチェンジによる立ち退き
・物件の建て替えによる立ち退き
・行政や再開発組合による再開発事業等による立ち退き

上記の各ケースについて詳しくご説明します。

 

ケース1 大家都合・オーナーチェンジによる立ち退き

大家都合による立ち退きの例としては、大家自身がその賃貸物件を利用するための立ち退き請求が挙げられます。そのような立ち退き請求は、オーナーチェンジの場合に多く見られます。

このような理由で入居者に立ち退きを求める場合には、大家都合の物件利用の必要性や緊急性が重視されます。例えば、賃貸物件を1件のみ所有する高齢の大家が要介護の状態となり、家族と同居して介護を受けるためにその物件を利用する場合などであれば、大家による物件利用の必要性や緊急性は比較的高いといえるでしょう。

大家の物件利用の必要性や緊急性は、立ち退き料の額にも影響します。必要性や緊急性が高いほど立ち退き料の額は低く、必要性や緊急性が低いほど立ち退き料の額は高くなるのが一般的です。

 

ケース2 物件の建て替えによる立ち退き

賃貸物件の建て替えや売却を理由に、入居者に退去を求めるケースも比較的よく見られます。
このようなケースでも、大家から入居者に対して立ち退き料が支払われることがあります。

ただし、建て替えの緊急性が高い場合には、立ち退き料の額が低くなったり支払われなかったりする可能性もゼロではありません。ここでいう緊急性とは、「老朽化により今にも建物崩壊の危険性がある」「欠陥により今にも建物が倒壊する危険性がある」などといった重大な危険が差し迫っていることを指します。

 

ケース3 行政の再開発事業等による立ち退き

行政の再開発事業や道路建設のために建物を解体する必要性があるとして、物件からの立ち退きを求められることもあります。
このような場合には、立ち退き料が支払われることが多いといえます。

 

立ち退き料と正当事由

 

では立ち退き料は、そもそもどういった性質のものなのでしょうか。
ここでは、立ち退き料に関する法的な定めと、立ち退き料の額の算定に関係する「正当の事由」(借地借家法28条)について解説します。

 

立ち退き料とは

大家が入居者に立ち退きを求める際には、その引越し代や移転先の初期費用相当額が支払われることがあります。これを立ち退き料と呼びます。
立ち退き料の支払い義務は法律上定められているものではなく、大家に法的な支払いの義務はありません。よって、法律上明確な立ち退き料の金額の算出方法も存在しません。

それでも立ち退き料の支払いが行われることが珍しくないのは、入居者に大家側からの一方的な賃貸借契約の解除を受け入れて円滑に退去してもらうことを目的としていることに加えて、立ち退き料に、立ち退き請求の「正当の事由」を補完する効果があるためでしょう。この点については、次章『立ち退き料は「正当の事由」を補完する』でご説明します。

 

立ち退き料は「正当の事由」を補完する

賃貸人による賃貸借契約の更新拒絶や解約の申入れ、すなわち立ち退き請求について定めているのが、借地借家法第28条の以下の条文です。

【借地借家法 第二十八条 (建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)】
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

この条文では、次のことが定められています。

・「賃貸借の解約」すなわち立ち退き請求は、「正当の事由」がある場合のみ認められること
・「財産上の給付」すなわち立ち退き料の支払いが、立ち退きの「正当の事由」を補完する事由となりうること

ここでいう「正当の事由」とは、前章で述べた立ち退きの必要性や緊急性にも関係します。

立ち退きの必要性・緊急性の大小によって、「正当の事由」の強弱は変わります。
また、「正当の事由」の強弱によって、それを補完する立ち退き料の額も次のように変化する傾向があります。

・「正当の事由」が弱ければ、それを補完する「財産上の給付」(立ち退き料)の額は高くなる
・「正当の事由」が強ければ、それを補完する「財産上の給付」(立ち退き料)の額は低くなる

立ち退き料の額と立ち退きの理由には深い関係があることを押さえておきましょう。

 

賃貸物件の立ち退き料の相場と考慮要素

ここからは、賃貸物件の立ち退き料の相場と考慮要素を、物件の利用用途別にみていきましょう。

 

1 住居の場合

住居として利用している賃貸物件からの立ち退き料は、賃料の6〜12ヶ月分ほどが相場と言われることが多いですが、実際は物件の状況や大家の属性、その他の個別具体的な事情に左右されます。

住居の立ち退き料算定の際に考慮される要素

立ち退き料の金額を算定するにあたり、次のような要素が勘案されることがあります。

・転居費用
・新居契約費用
・家賃差額
・その他補償

最終的には、大家との交渉を経た上で、概括的に決められることが通常ですが、交渉の要素としての引越し費用や家賃相場などは地域によって大きく異なるため、具体的な金額はやはり個別具体的な事情に応じて算出されることになります。

 

2 店舗の場合

不特定多数の顧客向けの店舗として利用している賃貸物件からの立ち退き料は、賃料の2〜3年分ほどが相場と言われることがありますが、住居の場合と同様に、個別具体的な状況に左右されます。特に、店舗として利用している場合には、店舗の業種や営業年数、収入状況、移転先候補の有無やその場所、その他事情も加味されて判断されることになるため、住居の場合よりも交渉が複雑になるといえるでしょう。

 

店舗の立ち退き料算定の際に考慮される要素

立ち退き料の金額を算定するにあたり、次のような要素が勘案されることがあります。

・新店舗への移転費用
・移転で生じる営業・損失補償
・借家権消失の対価としての補償

店舗の立ち退きの場合、住居の場合よりも支払われる立ち退き料は高額になる傾向にあります。なぜなら、新店舗への移転費用だけでなく、内装・設備工事の費用や移転休業による営業損失などもその対象となりうるためです。

 

3 事務所の場合

事務所利用の場合の立ち退き料は、業種にもよりますが、店舗の場合と比べると移転の影響は大きくない反面、住居と比べれば代替性が落ちるともいえるため、店舗と住居の立ち退きにおける両側面を有するといえます。

 

立ち退き料を受け取れないケース

 

賃貸物件からの立ち退きでは、入居者はどんな場合であっても立ち退き料を受け取れるわけではありません。次のようなケースでは、立ち退き料を受け取ることができないか、ごく少額にとどまる可能性があります。

・賃借人(入居者)による契約違反(迷惑行為、家賃滞納など)があった場合
・オーナー側の経済的事情などで物件が競売にかけられ、落札により新所有者が決まった場合
・定期賃貸借契約の期間満了を迎えた場合

賃借人である入居者による契約違反(迷惑行為、家賃滞納など)は、賃貸借契約の解除事由となりうるため、これらの理由による賃貸借契約の解除に伴う退去の請求があった場合には、立ち退き料の支払い対象にならない可能性が非常に高いといえます。

また、オーナー側が経済的に問題を抱え、ローン弁済が出来なかった等の事情により、物件に抵当権を有している債権者が物件を競売にかけたような場合には、抵当権と賃借権は、その設定と物件の引渡しの先後関係で優劣が決まります。多くの場合、抵当権の方が先に設定されているため、結果として賃借人が保護されないという結論になることが多いです。

さらに、賃貸借契約には期限付きのもの(定期賃貸借契約)が存在します。定期賃貸借契約の場合、貸主は、定められた賃貸借期間が満了する6か月前までの通知をすれば、「正当の事由」なく退去を求めることができます。このように、定期賃貸借契約で初めから期間満了時の退去が決まっている場合にも、立ち退き料の支払いの対象とはなりません。

他には、建物の危険性が深刻で建て替えや解体が急がれる場合や、大家による建物使用の必要性・緊急性が非常に高い場合にも立ち退き料が支払われない可能性があります。
「正当の事由」の有無や程度によって立ち退き料の有無や金額が左右される傾向にあるため、立ち退き料を受け取れるかどうかはケースバイケースだと言えるでしょう。

 

正当な理由なく立ち退き料がもらえない場合の対処法

 

立ち退きの「正当の事由」が備わっていないにもかかわらず、大家が立ち退き料の支払い意思を見せず、入居者からの交渉にも対応しない場合には、次のような対応を検討しましょう。

ただちに立ち退きに応じることは避ける

立ち退き料が支払われない、その額が十分でない等の場合には、ただちに立退きに応じることは避けましょう。

この場合、双方の交渉が決裂すれば、裁判に発展する可能性がありますが、裁判では、大家側の述べる事情が「正当の事由」に該当するかが争われることになります。

 

弁護士に相談する

立ち退き請求に際し、大家が立ち退き料を支払う意向を見せない場合には、弁護士に相談することも検討しましょう。
弁護士に依頼すれば、入居者は法律に則したアドバイスやサポートを受けられます。弁護士が代理で大家と交渉することにより、より有利な条件を引き出すことも可能でしょう。

具体的な立ち退き料の金額を交渉するにあたっては、知識と経験が必要となるため、入居者自身が大家と交渉するのは、簡単なことではありません。手間もかかりますし、心身の負担も大きいでしょう。
しかし弁護士の手を借りれば、この負担を和らげ、スムーズな問題解決を目指すことができます。

 

まとめ

 

賃貸物件では、大家都合や建て替え、再開発事業などの理由によって入居者が立ち退きを求められることがあります。
その際に支払われることがあるのが、立ち退き料とその他の補償です。立ち退き料の支払いは法的に定められたものではありませんので、直ちに大家との間で立ち退き料の話になるとは限りません。しかし、立ち退き料の支払いは、立ち退きの請求にあたって必要となる「正当の事由」を補完する要素となりうるため、大家側から一定の立ち退き料が提示されることも少なくありません。

ただし、その金額としてどの程度が適切なのか、また、退去の時期や方法、その他の条件など、何が適切なのかを判断するためには知識と経験が必要となります。

また、立ち退きの理由によっては、立ち退き料は支払われないか、ごく少額にとどまる可能性があります。

ご自身の置かれている状況がいずれの場合に該当するかを適切に判断することは容易ではありませんので、ただちに大家側からの立ち退き請求に応じるのではなく、まずは弁護士に相談することを検討しましょう。

立退き料が得られる可能性のあるケースの場合、弁護士に交渉を依頼することで、より有利な条件で問題を解決できる可能性があります。

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢