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立ち退き交渉は非弁行為?弁護士に交渉を依頼するメリット等も解説

コラム/[更新日]2024年9月24日

立ち退き交渉は非弁行為?弁護士に交渉を依頼するメリット等も解説

賃貸物件から立ち退きを求められた際、大家(賃貸人)と入居者(賃借人)との間で、立ち退き料の金額やその他の条件に関する交渉が行われることがあります。

この交渉は、入居者の納得のいく条件での立ち退きを実現するための重要な局面であることから、立ち退き交渉に関する知識と経験を有する弁護士に相談の上、立ち退き交渉を依頼することを検討すべきでしょう。

このように、弁護士が入居者を代理して大家との間で交渉を行うことは可能ですが、弁護士以外の者による交渉の代理はできません。なぜなら、弁護士法で禁止される非弁行為に該当するおそれがあるためです。

では、非弁行為とは一体何なのでしょうか。

今回は、立ち退き交渉で注意すべき非弁行為について詳しく解説します。

 

 

非弁行為とは

非弁行為とは、弁護士又は弁護士法人でない者が報酬を得る目的で、法律事件に関する法律事務を業として行うことを指します。

非弁行為は、以下の弁護士法第72条で禁止されています。

【弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)】

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

非弁行為はなぜ禁止されている?

非弁行為はなぜ法律で禁じられているのでしょうか。

その理由は、紛争について反社会的勢力を始めとする無資格者の介入を許してしまうと、違法・不当な結果が頻発し、法秩序の維持が困難になるためです。非弁行為を禁じる目的は、資格を取得した弁護士だけが法律事務を行えるようにすることによって、社会の法的秩序を守ることにあります。

もしこの行為が禁止されておらず、誰もが法律事務を行える状況であれば、社会はどうなるでしょうか。知識のない人が法律事務を行うことで、法秩序は乱れ、違法な実力行使で物事が決まるようになってしまいます。

このような状態を避けるためにも、非弁行為の禁止規定は必要なのです。

非弁行為には罰則がある

非弁行為には、弁護士法第77条により罰則が設けられています。その内容は次のとおりです。

2年以下の懲役または300万円以下の罰金

非弁行為を行った者は、上記の刑事罰の対象となります。近年、弁護士以の者による法律業務の取扱いのみならず、弁護士が所属している法律事務所であっても、事務職員が事実上業務を行っているような事務所が増えてきており、結果として弁護士自身が非弁行為で逮捕されるという事案も多くみられます。

 

 

立ち退き交渉は非弁行為に該当するのか

結論から述べると、法律事務所の事務職員自身による交渉も含め、弁護士以外の者による立ち退き交渉の代理は、非弁行為に該当する可能性が高いといえます。その該当性は、弁護士法第72条に記載のある以下の4つの要件によって判断されることになります。

 

1. 弁護士又は弁護士法人でない者
2. 報酬を得る目的
3. 法律事件に関する法律事務
4. 業とする

 

上記4つの要件を全て満たす場合、その行為は非弁行為に該当するといえます。

ここでは、立ち退き交渉の代理が非弁行為にあたるかどうかを判断するポイントを、上記の4点から解説します。

 

1 弁護士又は弁護士法人でない者

「弁護士又は弁護士法人でない者」、すなわち弁護士資格を有していない者が立ち退き交渉の代理を行うと、その行為は非弁行為に該当する可能性があります。

2 報酬を得る目的

その行為を「報酬を得る目的で行なったかどうか」も、非弁行為に該当するかを判断する重要な要素です。

ここでいう報酬には、金銭の授受だけでなく、物品を受け取ることや供応を受けることも含まれると解されています。

また、実際に報酬を得るに至らなくとも、報酬を得る「目的」を有している場合には、この要件を満たすことになります。形式上ボランティアを装っていても、何らかの利益を得ることを目的としていれば同様に非弁行為として扱われます。

3 法律事件に関する法律事務

非弁行為の対象となる行為は、「法律事件に関する法律事務」です。

ここでいう法律事件とは「法律上の権利義務に関する争い」を、法律事務とは「法律事件について法律の効果を発生させるための事務処理」を指すとされています。

立ち退き交渉は、大家と入居者がお互いの法律上の権利を主張し、最終的に法律の効果を発生させるための事務処理を行って決する点で、「法律事務に関する法律事務」に該当すると考えられます。実際に、立ち退き交渉を「法律事件に関する法律事務」に該当するとした裁判例は少なくありません。

4 業とする

「業とする」とは、業務として何度も継続的に行うこと、またはその意思があることを指します

弁護士ではない者が、報酬を得るために、法律事件に関する法律事務(立ち退き交渉)を業務として継続的に行う場合には、非弁行為に該当すると考えられます。

 

 

立ち退き事案において管理会社や不動産会社でもできること

前述のとおり、法律事務は弁護士のみが取り扱うことができます。もし物件の管理会社や不動産会社、または自称専門家が立ち退き交渉の代理を行った場合、その行為は非弁行為に該当する可能性があります。

では、立ち退き事案において管理会社や不動産会社には何ができるのでしょうか。

立ち退き事案に関して管理会社や不動産会社ができるのは、大家と入居者の間で書類の取り次ぎや連絡の取り次ぎ、実際の立ち退き時の立会いなどに限定されるでしょう。

管理会社・不動産会社は、基本的に立ち退き事案に際してこれ以上のことはできません。

管理会社や不動産会社は不動産取引に詳しいため、立ち退き問題にあたって当事者にアドバイスすることもあるかもしれません。しかし大家・入居者に代わって立ち退き交渉を行うことはもちろん、交渉を巡った紛争に介入することもできません。

 

 

立ち退き交渉を弁護士に依頼するメリット

管理会社や不動産会社と異なり、弁護士は入居者の代理人として立ち退き交渉を行うことができます。

弁護士に依頼するには弁護士費用を支払う必要がありますが、入居者は次のメリットを得ることができます。

 

・「正当の事由」の有無や程度をふまえた交渉ができる

・正当な水準の立ち退き料を提示できる

・早期に解決できる

 

借地借家法第28条では、大家が入居者に立ち退きを求める際には「正当の事由」が必要であると定められています。また、「正当の事由」を補完する要素として「財産上の給付=立ち退き料」が存在することも明記されています。

そのため、大家から提示された理由が「正当の事由」にあたるかどうか、また「正当の事由」としてどの程度の強さを持つかによって、立ち退き料の金額が左右される傾向にあります。

よって、正当な立ち退き料を主張し受け取るためには、「正当の事由」の有無や程度を正しく判断する必要があります。しかし、この判断には知識や経験が必要となるため、入居者自ら適切に判断することは困難といえます。

そこで力を借りるべきなのが、不動産問題を得意とする弁護士です。

不動産問題の知識と経験に長けた弁護士であれば、「正当の事由」の有無や程度を正しく判断し、適切な水準での解決を目指すことが可能となるでしょう。

また、弁護士の手を借りれば、交渉による入居者の負担は軽減され、交渉をスムーズに進め、早期決着を目指すことができます。ただし、貸主との交渉の結果、早期解決よりも立退料額の増額を目指すべきと判断される場合には、あえて長い目で見て交渉を続ける場合もあり得ます。

立ち退き交渉を弁護士に依頼するメリットについては、こちらで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

【借主向け】立ち退き交渉を弁護士に依頼するメリット・デメリット

 

 

まとめ

上記のとおり、非弁行為に該当する可能性が高いことから、立ち退き交渉の代理を管理会社や不動産会社が行うことは基本的にできません。非弁行為に該当する場合、当該行為を行った者は刑事罰の対象となります。

とはいえ、立ち退きの対応に慣れていない入居者が自身で交渉を進めるのは困難でしょう。そこで検討したいのが、弁護士に立ち退き交渉を依頼することです。管理会社や不動産会社が行えない立ち退き交渉を、弁護士は担うことができます。

弁護士に依頼すれば、適切な立ち退き料の金額をふまえた交渉を行うことができるでしょう。

問題を早期解決するためにも、大家から立ち退きを請求されたら、まずは弁護士に相談するようにしてください。

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢