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立ち退きの正当事由に「売却したい」は認められるのか?

コラム/[更新日]2024年10月29日

立ち退きの正当事由に「売却したい」は認められるのか?

大家が入居者に物件からの立ち退きを求めるには、「正当の事由」が必要です。これが認められない場合、大家が入居者を退去させることはできません。

「正当の事由」となるものには、建物の老朽化や大家の自己使用などがあります。
では「建物の売却」は「正当の事由」となるのでしょうか。

今回は、売却目的の立ち退きについて詳しくご説明します。

 

立ち退きには「正当の事由」が必要

借地借家法第28条では、賃貸人が賃借人への立ち退き請求賃貸人の主張する「建物の使用を必要とする事情」に「正当の事由」が認められなければならないと示されています。つまり、大家が入居者に立ち退き請求をするには、正当性のある理由が必要だと定められているのです。

正当性のある理由の例としては、次のようなものがあります。

・建物の耐震性に問題があり、解体・建て替えの必要がある
・介護のために家族との同居が必要になり、大家が唯一所有しているその物件を使用する など

上記のような理由に加え、借主が建物を必要とする事情や従前の経緯など、様々な要素が総合的に考慮され、借主の立ち退き請求に正当性があるかどうかが判断されます。

正当の事由の考慮要素については、こちらの記事で詳しく解説しています。

【賃貸の借主向け】立ち退きの正当事由を弁護士が徹底解説

 

 

立ち退きの正当事由として物件の売却が認められる可能性があるケース

物件の売却も、立ち退きの「正当の事由」として認められる可能性はあります。それは、次のようなケースです。

・借金返済
・相続税の支払い

上記のような経済上の必要性が高いと認められる時には、物件の売却が「正当の事由」となる可能性があります。

 

ケース1 借金返済

自身の借金を返済するために物件を売却したいという理由での立ち退き請求は、その正当性が認められる可能性があります。
ただしのこの場合、大家が他に財産を持っておらず、物件を売却して借金返済に充てなければならないという経済上の必要性が求められるでしょう。

 

ケース2 相続税の支払い

相続税を支払うために物件を売却したいというようなケースも、立ち退きの「正当の事由」として成立する可能性はあります。過去の事例でも実際に立ち退き請求が認められている事例があります。

ただし、これも借金返済の場合と同様、経済上の必要性がポイントとなり、他に相続税を支払う方法がないかが重視されるでしょう。

 

立ち退きの正当事由として物件の売却が認められない可能性が高いケース

では反対に、物件の売却が立ち退きの「正当の事由」として認められないのはどのようなケースなのでしょうか。

それは、「利益を得ることを目的とした売却」です。入居者がいるにも関わらず、「高く買ってくれる人がいるから」など、利益を得る目的で大家が入居者を立ち退かせることは、基本的に認められません。

もちろんケースによって変わりますが、物件の売却が立ち退きの「正当の事由」として認められるのは、基本的に経済上の必要性が高い場合です。大家が「利益を得る」ことは、これに当てはまりません。

 

入居者がいる状態で買い取って転売する悪質な業者も

立ち退き請求をされなくても、賃貸物件の売買により大家が変わった場合には、その後の大家の対応に注意する必要があります。入居者がいる状態で賃貸物件を買い上げて、新しい大家となった業者の中には、さらなる転売による利益獲得を目的としている業者もいるためです。

このような業者は、買い上げた賃貸物件の入居者に立ち退きを迫り、自身が購入したよりも高値で第三者に物件・土地を販売して利益を得ようとします。「正当の事由」の観点からいうと、もちろんそのような理由での立ち退き請求は認められません。
そのため、建物の建て替えなど、業者が嘘の理由を主張することもあるようです。

とはいえ、このような場合に、一般の方が「正当な立ち退きなのか」「大家が主張する理由は本当なのか判断するのは困難でしょう。正しい判断を行うためには、弁護士の手を借りることをおすすめします。

 

物件の売却以外で正当事由が認められるケース

物件の売却以外で、立ち退きの「正当の事由」が認められる主なケースとしては、次の2つが挙げられます。

・建物の老朽化
・賃貸人による自己使用

これらのケースでは、その必要性の高さによっては「正当の事由」が認められ、大家による立ち退き請求が可能になることがあります。
詳しくみていきましょう。

 

ケース1 建物の老朽化

建物が老朽化していて安全性を確保できないような場合、建物の解体・建て替えのための立ち退き請求は、「正当の事由」と認められる可能性が高いです。
ただしこの場合、ただ建物が古くなっているだけでは正当性は認められません。老朽化によって構造が劣化していたり耐震性に問題があったりと、居住に危険が伴うような場合のみ、その正当性は認められます。

また、万が一地震や火災などの災害が起きて、建物が倒壊してしまったような場合には、大家はそれを理由に賃貸借契約を終了させることが可能です。

 

ケース2 賃貸人による自己使用

賃貸人、つまり大家による自己使用も、立ち退きの「正当の事由」として認められる場合があります。
このケースでは、「大家の自己使用の必要性」が大きなポイントになります。必要性が高ければ、正当性は認められやすくなるでしょう。

自己使用の必要性が高いケースとしては、次のようなものが考えられます。

他に物件を保有しておらず、介護のための同居で物件の使用が必要である
病気の療養中で、通院している病院がその物件から近い
経済的に余裕がなく、他の賃貸物件を契約するのが困難である など

ただ「使いたいから」「住みたいから」などという理由で、大家が入居者に立ち退きを求めることはできません。また、他の物件を保有している場合にも、該当物件を使用する必要性は低いと判断されるため、正当性は認められにくいでしょう。

 

立ち退き料の必要性

賃貸物件からの立ち退きにあたって、大家からの入居者に支払われる金銭を「立ち退き料」と呼びます。
立ち退き料は、一般的に立ち退きに対する詫びやお礼の意味を持つものとされています。しかし、役割はそれだけではありません。立ち退き料は、立ち退きの「正当の事由」を補完する役割を持っています。

 

立ち退き料は事由を補完する

先ほど、借地借家法第28条には、立ち退きに「正当の事由」が必要であることが定められているとご紹介しました。

実はこの条文では、立ち退き料についても触れられており、そこには「賃借人(入居者)に対する財産上の給付が、正当の事由の考慮要素となる」ことが記されています。

「財産上の給付」とは、立ち退き料のことを指します。つまり、大家から入居者への立ち退き料の支払いによって、「正当の事由」は考慮されるのです。立ち退き料が「正当の事由」を補う要素となると言えるでしょう。

 

事由の強弱で金額は変わる

「正当の事由」とその補完要素となる立ち退き料との間には、次の関係性が成立します。

「正当の事由」が強ければ、立ち退き料の金額は安くなる
「正当の事由」が弱ければ、立ち退き料の金額は高くなる

立ち退き料は「正当の事由」を補完するため、その事由の正当性によって支払われるべき金額は変わります。もし正当性が弱い場合でも、立ち退き料を多く支払えば、立ち退きの「正当の事由」が認められる可能性は高くなるということです。

 

立ち退き料の相場

では、大家都合での立ち退きで立ち退き料をどれくらい受け取れるのか、気になる方は多いでしょう。ここでは、立ち退き料の相場について解説していきます。

賃貸の立ち退き料の相場は、、一般的には「家賃の6〜12ヶ月分」だと言われていますが、実際に支払われる立ち退き料の金額はケースバイケースです。大家の主張する「正当の事由」の強度に応じた金額は、事案によって異なるためです。
また、立ち退き料には引越し代や新居契約費などが含まれますが、地域や時期ごとのこれらの費用の相場によっても、金額に差は出るでしょう。

大家から立ち退きを求められた時に、十分な額の立ち退き料を請求するためには、うまく交渉を進めることが大切です。交渉の中で、大家が主張する事由を適切に判断し、また立ち退きによって被る自身の不利益をしっかり訴えることで、納得のいく補償を受け取れる可能性は高くなるでしょう。

ただし立ち退き交渉は、入居者自らが行うにはハードルの高いものです。自身の負担を軽減し、より有利に交渉を進めるためには、不動産問題に精通した弁護士に代理交渉を依頼すると良いでしょう。

 

まとめ

大家が入居者に賃貸物件からの立ち退きを求めるためには、「正当の事由」が必要です。
この「正当の事由」として認められるケースのひとつに、「建物の売却」があります。ただし、売却の正当性が認められるのは経済上の必要性が高い場合のみです。ただ利益を得たいという理由での売却では、正当性が認められない可能性は高いでしょう。

立ち退きの「正当の事由」の強度は、支払われる立ち退き料の金額を左右します。よって、適切な額の立ち退き料を受け取るためには、入居者は大家の主張する事由の正当性を正しく判断しなければなりません。
のためには、不動産問題の豊富な実績を持つ弁護士の手を借りることをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、交渉の負担は軽くなります。経験をもとにした「正当の事由」の判断により、十分な額の立ち退き料を請求することもできるでしょう。

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢