コラム
【借主向け】立ち退きの合意書の確認ポイントを解説
賃借人である入居者が、賃貸人である大家に物件からの立ち退きを求められた場合には、立ち退き交渉を行う必要があります。この交渉では、立ち退きにあたっての条件などを双方ですり合わせ、立ち退き合意書を作成します。
では、この合意書にはどのような内容を記載すれば良いのでしょうか。また注目すべきポイントはあるのでしょうか。
今回は、立ち退き合意書について詳しく解説します。
立ち退き合意書とは
立ち退きに際して、賃貸人(大家)と賃借人(入居者)が条件に合意したこと、またその条件の内容について記す書類を「立ち退き合意書」と呼びます。
この合意書は、合意の証明としての役割を果たし、法的な効力を持ちます。これを作成しておけば、合意の事実とその内容が証明されるため、後から一方が勝手に条件を変更することはできません。
後々のトラブルを防止するために、立ち退きにあたっての合意書の作成は必須だと言えるでしょう。
また、立ち退き合意書を作成するためには、その記載事項にも注意しなければなりません。記載が必要な事項が抜けていると、トラブルや入居者自身の不利益に繋がるためです。
立ち退き合意書の作成では、立ち退きに関わる全ての重要事項についてきちんと記載しておくことが大切です。
立ち退き合意書に記載が必要な事項
立ち退き合意書に記載すべき主な事項は、次の6つです。
・賃貸借契約解除に対する合意
・物件の退去までの猶予期間
・立ち退き料の支払い
・敷金の返還
・室内残存物の取り扱い
・解約後の使用損害金
具体的な記載内容を確認していきましょう。
1 賃貸借契約解除に対する合意
立ち退き合意書にまず記載しなければならないのが、賃貸借契約の解除に大家と入居者双方が合意したという事実です。
物件の賃貸借契約とは、物件の貸与とそれに対する賃料の支払いについて定めた契約のことを指します。これが解除となれば、賃貸人と賃借人という関係も解除され、入居者はその物件から退去することになります。
賃貸借契約解除に対する合意は、立ち退き合意書の最初に記すのが一般的です。
2 物件の退去までの猶予期間
賃貸借契約解除後に、入居者が物件から退去するまでの猶予期間についても、合意書には明確に記しておく必要があります。この項目では、退去期限だけでなく、期限を経過しても退去しない場合のペナルティ(金銭の発生など)も記載されます。
また、退去にあたっての原状回復(物件を入居時の状態に戻して返却すること)の必要性やその費用負担についても記載しておくようにしましょう。
3 立ち退き料の支払い
立ち退き合意書には、大家から入居者への立ち退き料の支払いの有無、またその金額と支払い期日についても記載します。
立ち退き料の支払いは、入居者の退去が完了した時に支払うのが一般的です。この場合、合意書には「建物の明け渡し時に立ち退き料として◯円を支払う」旨を記しておきましょう。
また、具体的な金額については、双方間での交渉の上、引越し代や新居契約費等の相場をもとに決定されることが多いです。
立ち退き料については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「大家都合で退去する場合の立ち退き料の相場|内訳・もらえないケースも解説」
4 敷金の返還
敷金の返還があるかどうかも、合意書に記載すべき事項のひとつです。
入居時に大家に支払う敷金は、「家賃滞納」や「過失や故意による建物への損傷」に備えた担保金です。
立ち退き要請に伴う賃貸借契約解除となれば、敷金は全額返還となることが多いです。ただし、入居者負担での原状回復の必要性がある場合には、建物の損傷の状態によって、一部金額が差し引かれる可能性があります。
敷金の返還に関しても、その金額と返還期日を明記します。
5 室内残存物の取り扱い
立ち退き合意書には、「室内残存物をどう取り扱うか」についても記しておく必要があります。通常の退去に比べ、立ち退きの場合は、入居者が物件に私物を残していくことが多いためです。
入居者の残存物を大家が自身の判断で処分するには、それを合意書に定めておかなければなりません。この事項が決められていないと大家は残存物の処分に困ることになるので、合意書には室内残存物の取り扱い方法が必ず盛り込まれます。
6 解約後の使用損害金
合意書には、解約後の使用損害金についても明記されることになります。
これは、賃貸借契約の解除後に、退去期日がきても入居者が立ち退かなかった場合に備えた事項であり、その場合の損害金について定めるものです。具体的には、使用損害金の金額や算出方法が記されます。
この使用損害金は、入居者が別途支払うのではなく、大家が支払う立ち退き料から差し引かれるのが一般的となっています。よって、合意書にはその旨も明確に記載します。
立ち退き合意書の確認ポイント
立ち退き合意書は、大家によって作成されることが多いです。合意書を受け取ったら、入居者は署名を行う前に、口頭などで約束した内容と書面の内容に相違がないか、自身に不利になるような事項が盛り込まれていないか、よく確認するようにしましょう。
具体的には、次のようなポイントに注目して内容を確認する必要があります。
・退去の期限
・立ち退き料と支払期日
・原状回復費用の負担
・敷金が全額返還されるか
・収入印紙の取り扱い
各ポイントについて詳しくご説明します。
1 退去の期限
受け取った合意書でまず注目したいのが、物件からの退去期限です。書面には具体的な退去期日が記載されているはずなので、自身がいつまでに物件から退去すればいいのか確認しましょう。
退去期限は、ある程度の余裕を持って設定してもらうことをおすすめします。退去期日までに十分な日にちがないと、引越しの手配や新居の契約などが間に合わなくなる恐れがあるためです。退去が期日に間に合わなければ、使用損害金が発生する可能性も考えられます。
よって、退去期日については、立ち退き交渉の中で大家とよく話し合い、十分な猶予を求めるようにしましょう。
2 立ち退き料と支払期日
次に注目したいのが、立ち退き料についてです。「いくらの立ち退き料がいつまでに支払われるのか」、金額と支払い期日が交渉時の合意どおりに記載されているか確認しましょう。
立ち退きでは、立ち退き料の支払いは原則建物の明け渡し時になります。「退去後に立ち退き料を支払ってもらえなかった」また「立ち退き料を先に支払ったのに期日通り退去してもらえなかった」などといった入居者・大家双方の不利益を防止するためです。
ただし、入居者に引越しや新居の契約のための資金がない場合には、それらの手続きをサポートするため、先に一部の立ち退き料が支払われることがあります。交渉時には、立ち退き料の金額だけでなく、支払いのタイミングについても希望を述べるようにしましょう。
3 原状回復費用の負担
原状回復とは、故意や過失による建物の損傷を入居者負担で修繕し、入居時と同じ状態に戻して大家に返却することです。賃貸借契約においては、入居者に原状回復の義務が生じます。
入居者の契約違反や迷惑行為による立ち退きの場合には、通常の退去の場合と同様、入居者は原状回復費用を負担しなければなりません。
ただし大家都合の立ち退きであれば、交渉次第で原状回復費用の負担を免除してもらうことは可能でしょう。また、立ち退きの理由が建物の解体・建て直しであるのなら、わざわざ原状回復する必要はないと考えられます。
合意書には、原状回復の必要性やその費用の負担についても記載されます。入居者が費用を負担する場合では、敷金や立ち退き料からその費用が差し引かれる旨が記されることが多いです。
合意書を受け取ったら、原状回復についても合意内容と相違がないか、よく確認しておくようにしてください。
原状回復費用については、こちらで詳しく解説しています。
「大家都合により退去する場合、原状回復費用は負担する必要があるのか?」
4 敷金が全額返還されるか
敷金が全額返還されるかどうかも、立ち退き合意書で確認すべきポイントです。
大家都合の立ち退きにおいて、交渉次第では敷金の全額返還を求めることができます。
敷金の取り扱いは交渉の内容によっても異なります。入居者は、合意書に交渉時の合意内容がきちんと記載されているかチェックするようにしましょう。
5 収入印紙の取り扱い
立ち退き合意書は課税書類ではないので、基本的に収入印紙を貼る必要はありません。万が一収入印紙の貼付を求められた場合は、その理由を尋ねましょう。
ただし、合意書に損害金や保証金として5万円以上の金額を記載する場合には、印紙が必要になります。
立ち退き合意書について弁護士に相談するメリット
交渉から作成、確認まで、立ち退き合意書作成に必要な一連の手続きは、弁護士に依頼するようにしましょう。弁護士の手を借りることで、入居者は多くのメリットを得ることができます。
メリット1 代理交渉
立ち退き交渉は、立ち退き料の金額やその他の条件を決める非常に重要な手続きです。弁護士に代理交渉を依頼することで、入居者は次のようなメリットを得られます。
・交渉の負担を軽減できる
・十分な金額の立ち退き料を請求できる
・納得いく条件を引き出せる
弁護士が代理交渉を行う場合、基本的な交渉や手続きは全て弁護士に任せることができます。これにより、入居者の精神的・時間的な負担は軽減されるでしょう。
また、不動産トラブルの解決実績が豊富な弁護士であれば、大家の主張する立ち退き事由を適切に判断し、入居者により有利な条件を求めることも可能になります。
メリット2 合意書の作成
立ち退き合意書は法的な効力を持つ重要なものです。後々のトラブルを防ぐため、また入居者と大家双方の権利を守るためにも、合意書の内容は正確でなければなりません。
この合意書の作成も、弁護士に依頼することで、正確かつスムーズに進みます。
また、合意書は大家側で作成されることが多いですが、入居者が受け取った合意書の内容確認やその後のトラブル対応にも、弁護士は活躍します。
まとめ
賃貸物件からの立ち退きを要請された場合には、入居者は大家と交渉を行い、立ち退きにあたっての条件を決定する必要があります。この交渉での双方の合意内容を書面にまとめたものが、立ち退き合意書です。
立ち退き合意書は法的な効力を持つ重要な書類です。よって、トラブルを避けるためにも、この書類は正確な内容で作成されなければなりません。
合意書は大家側で作成されることが多いので、入居者は受け取った書類の内容をよく確認した上で、署名・捺印を行うようにしましょう。
また、交渉や合意書の作成など、立ち退きにあたっての一連の手続きは、入居者にとって大きな負担となります。この負担を避け、より良い条件を引き出すためにも、立ち退きに関する手続きは弁護士への依頼を検討しましょう。
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢