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【借主向け】アパート取り壊しによる立ち退き料の相場|流れ・注意点等も解説

コラム/[更新日]2024年11月28日

【借主向け】アパート取り壊しによる立ち退き料の相場|流れ・注意点等も解説

アパートなどの賃貸物件では、建物を取り壊すために、賃貸人である大家が賃借人である入居者に立ち退きを求めることがあります。

通常、立ち退きにあたっては大家から入居者へ立ち退き料が支払われますが、アパートを取り壊すための退去の場合でも、これを受け取ることはできるのでしょうか。また、立ち退き料を受け取れるとすれば、その金額はどれくらいなのでしょうか。

今回はアパートの取り壊しを理由にした立ち退きにおける立ち退き料について詳しく解説します。

 

 

アパート取り壊しにより立ち退き料はもらえるのか?

結論から述べると、アパートの取り壊しによる立ち退きでは、入居者は大家から立ち退き料を受け取れる可能性が高いです。

なぜなら、入居者がそこに住む権利は借地借家法という法律によって厳重に守られているためです。立ち退きは居住権を一方的に剥奪する行為であるため、法律で厳しく制限されています。
よって、アパートを取り壊したいからといって入居者を自身の都合で退去させることは基本的にできません。

法に則って大家が入居者を退去させるには、立ち退きを要請する「正当事由」を提示するとともに、多くの場合、相応しい額の立ち退き料を支払うことが必要になります。

ただし、アパートが倒壊の危険があるほどに老朽化している場合(詳しくは後述しています)など、正当事由が認められるケースでは、立ち退き料はもらえないか少額になる可能性があります。

 

正当事由と立ち退き料の関係

前述のとおり、アパートの取り壊しをはじめとした大家都合での立ち退きでは、入居者には立ち退き料が支払われるのが合理的です。

とはいえ、立ち退き料の支払いは法律で定められたものではありません。そのため、大家にはその法的な支払い義務はないのですが、多くの立ち退きでは立ち退き料が支払われています。
なぜなら、立ち退き料は立ち退き要請に必要な「正当事由」を補完するためです。

借地借家法第28条では、次のことが定められています。

大家が入居者に立ち退きを求めるには「正当の事由」が必要である
財産上の給付(立ち退き料の支払い)により「正当の事由」は補完することができる

つまり、立ち退き料を支払うことで、大家は立ち退き要請に必要な「正当事由」を補うことができるのです。
多くの大家都合による立ち退き案件で立ち退き料が支払われるのは、上記の法律により、大家には正当事由を補完する必要があるからと考えると良いでしょう。

 

「正当事由」の強度は立ち退き料の金額に影響する

上でご紹介した借地借家法第28条の内容から、正当事由と立ち退き料には次の関係性があります。

・正当の事由の強度が弱ければ、立ち退き料の金額は高くなる
・正当の事由の強度が強ければ、立ち退き料の金額は低くなる

立ち退き料は正当事由を補完するため、事由の強度によって立ち退き料の金額も変わるとするのが自然です。
これを踏まえ、立ち退き案件では、大家が主張する正当事由の強度に応じた額の立ち退き料が支払われて然るべきだと考えられます。

 

 

アパートの老朽化は正当事由になるのか

アパートの「老朽化による取り壊し・建て替え」が、立ち退きの正当事由として認められる可能性はあるのでしょうか。

実は、ただの老朽化では正当事由として不十分であるケースがほとんどです。老朽化が正当事由であると認められるためには、居住に危険が及ぶ程度に老朽化が進行しており、取り壊しが急がれるような状況である必要があります。

よってアパートが築40年や50年であっても、居住に問題が無ければ立ち退きを拒否することも可能である場合がほとんどです。

ただし前章でご紹介したとおり、財産上の給付(立ち退き料の支払い)により正当事由は補完することが可能です。つまり、相応しい額の立ち退き料を支払えば、その正当性が強化され、立ち退き要請が認められる可能性はあるということです。

 

 

アパート取り壊しによる立ち退き料の「相場」

アパートの取り壊しなどといった大家都合の立ち退きで支払われる立ち退き料の金額は、ケースバイケースです。

多くのサイトでは「支払われる立ち退き料の相場は、家賃の6~12ヶ月分程度」と解説されていますが、不正確と言わざるを得ません。

立ち退き料での補償対象となる転居費用や新居契約費用、迷惑料の金額はもちろん、「なぜアパートを取り壊すのか」「入居者がその物件に住む必要性はどれくらいか」などの個別事情によっても、支払われるべき立ち退き料の金額は大きく異なります。
そのため、立ち退き料の金額は同じ物件の入居者間でも差が生まれます。

下記の記事で、立ち退きの事例を一部紹介しております。ご自身の状況と照らし合わせ、立ち退き料の概算がつかめるかと思われます。

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アパート取り壊しによる立ち退き料の内訳

立ち退き料に含まれる補償の内訳として、よく下記の様な項目が用いられます。

・転居費用:引越し代や設備の移転、不用品処理費用など
・新居契約費用:敷金や礼金、仲介手数料、保証料など
・家賃差額:転居前後の家賃の差額
・その他補償:迷惑料など

上記の転居費用や新居契約費用については、その地域・時期での同条件での引越し代や敷金・礼金などの相場価格をもとに算出されます。

また立ち退き料では、一定期間における新居と旧居の家賃差額も補償対象です。例えば、家賃8万円のアパートから立ち退きにより家賃10万円のアパートに移るにあたって、6ヶ月分の差額補償が受けられる場合、入居者は12万円(2万円×6ヶ月)の家賃差額を受け取れます。
何ヶ月分・何年分の家賃差額が補償されるかはケースバイケースなので、交渉時にはよく確認しておくようにしましょう。

さらに、立ち退き料には立ち退きに対する迷惑料も含まれます。この金額もケースによって大きく異なり、場合によっては上記項目の中で最も高額になる可能性もあります。
迷惑料の金額は交渉の影響を受けやすいことを考えると、十分な立ち退き料を受けるためには、専門家に依頼するなど、交渉に力を入れるべきでしょう。

 

 

アパート取り壊しによる立ち退きの流れ

アパートの取り壊しによる立ち退きは、次のような流れで進められます。

1, 入居者に対する立ち退きの通知
2, 立ち退き料交渉の実施
3, 退去・立ち退き料の受け取り

上記の各ステップについて詳しくみていきましょう。

 

STEP1  入居者に対する立ち退きの通知

立ち退きにあたって、まず入居者は大家からの通知を受けることになります。
しかし、通知を受けたからといって、入居者はすぐに立ち退かなければならないわけではありません。この通知は契約終了の6ヶ月前までに行わなければならないと決められているため、立ち退きまでには最低半年の猶予があります。

通知を受けたら、立ち退き要請の理由や条件などそこに記載されている内容をよく確認し、交渉に備えましょう。

 

STEP2  立ち退き料交渉の実施

立ち退きを求められた場合には、必ず大家と交渉を行うようにしましょう。

交渉では、立ち退き料をはじめとした立ち退きにおける細かな条件について話し合います。場合によっては、代替物件を提案されることもあるでしょう。
この時、立ち退き料については、内訳と相場を示しながら、希望する具体的な金額を提示できるようにしておくと、交渉がスムーズに進みます。

その後、条件について双方が納得すれば、決定事項を書面に残し、入居者は退去準備を、大家は立ち退き料支払いの準備を進めます。
万が一交渉がまとまらず決裂すれば、裁判で争う可能性もあるでしょう。

 

STEP3  退去・立ち退き料の受け取り

交渉に合意したら、入居者は決められた期日までに退去を行います。

また、大家から立ち退き料が支払われるタイミングは、入居者の退去時となるのが一般的です。
ただし、先払いを希望する場合には、交渉時にその旨を伝えれば、退去前に立ち退き料を支払ってもらえる可能性もあります。

 

 

立ち退き交渉の注意点

最後に、立ち退きについて大家と交渉を行う際に注意したいポイントについて解説します。

 

注意点1 立ち退きに「交渉」は付き物

アパートからの立ち退きを求められた場合には、必ず交渉を行うようにしましょう。
大家からの通知だけで立ち退きを了承してしまっては、十分な補償を受けられず、立ち退き条件も悪くなってしまう恐れがあるためです。交渉をしない場合、立ち退き料が1円も支払われない可能性も考えられます。

立ち退きでは、大家に言われるままに手続きを進めるのではなく、交渉の中で自身の希望をきちんと伝えていくことが大切です。
希望する立ち退き料の金額とその根拠、また条件などは事前に簡潔にまとめておき、交渉時に漏れなく伝えられるようにしておきましょう。

 

注意点2 敷金の返還について確認する

立ち退き交渉にあたっては、敷金の返還についても必ず確認しておくようにしてください。

敷金は、入居時に大家が預かる担保金です。これは、賃貸借契約の解約時に、入居者に原則返還されるものです。
入居者に原状回復のための費用負担がある場合には、敷金からその修繕費用が差し引かれますが、入居者の退去後にアパートを取り壊すのであれば、原状回復は基本的に不要でしょう。

しかし、中には敷金を返還しなかったり「立ち退き料の中に敷金が含まれている」と主張したりする大家もいるようです。
そのような場合には、敷金の返還は法律で定められているものであること、また立ち退き料と敷金は別物であることを根拠に、敷金の返還を求めるようにしましょう。

 

注意点3 立ち退き合意書の内容をきちんと確認する

立ち退きでは、交渉で合意した内容を合意書にまとめます。これにより、「言った言わない」などの問題を避けられます。

この時気をつけたいのが、交渉で合意した内容が合意書にきちんと反映されているか確認することです。署名後に合意書の内容を変更することはできないので、書類の内容をしっかり確認してから署名を行うようにしてください。

 

注意点4 弁護士に相談する

立ち退き交渉をうまく進めるには、法律の知識が必要です。そのため、立ち退きを求められた際には弁護士に相談し、力を借りるのもひとつの方法でしょう。

法律の専門家である弁護士は、法律や判例に基づいて適正な金額の立ち退き料や適正な条件を判断し、大家にそれを求めることができます。弁護士に代理交渉を依頼すれば、入居者は自身の負担を減らすこともできるでしょう。

十分な補償を受けるためにも、大家から立ち退きの条件を提示された場合には、その場で自己判断するのは避けて保留し、弁護士のアドバイスを受けるようにしてください。

 

 

まとめ

アパートの取り壊しによる立ち退きでは、入居者は大家から立ち退き料を受け取れる可能性があります。

ただし、その金額は「アパートの取り壊し」の正当性の強さによって異なります。
居住に危険が及ぶほどの老朽化による取り壊しの場合、その正当性が強い分、立ち退き料の金額は低くなるでしょう。
一方、大家がただアパートを建て替えたい・取り壊して土地を売りたいと考えているような場合、その正当性は低く、立ち退き料は高額になると考えられます。場合によっては、立ち退き自体が認められないこともあるでしょう。

立ち退き要請を受けた時には、そのままそれを受け入れるのではなく、「正当性のある立ち退きか」を判断しながら、十分な補償を求めて交渉を行う必要があります。
この判断や交渉には法的なノウハウが必要であるため、交渉を有利に進めるためにも、立ち退き交渉は法律の専門家である弁護士に依頼するようにしましょう。

 

エジソン法律事務所ホームページ:https://edisonlaw.jp/tachinoki/

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢