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【老朽化が原因の立ち退き】退去費用は出してもらえない?

コラム/[更新日]2025年3月21日

【老朽化が原因の立ち退き】退去費用は出してもらえない?

賃貸物件を借りている入居者は、貸主から立ち退きを求められる可能性があります。
その理由はケースバイケースですが、特に多い理由のひとつが、老朽化。「老朽化した建物を取り壊したい・建て替えしたい」という理由で、大家が賃貸物件の借主に対し退去を求める例は、少なくありません。

では、老朽化を理由とした立ち退きにあたり、入居者の退去費用は誰が負担するのでしょうか。貸主側から退去費用は出してもらえないのでしょうか。

今回は、老朽化に伴う立ち退きにおける退去費用(立ち退き料)の支払いについて、わかりやすく解説していきます。

 

建物の老朽化を理由に立ち退きを求められた場合、退去費用はもらえないのか?

結論から述べると、建物の老朽化を理由に大家から立ち退きを求められた場合、入居者が立ち退き料として退去費用を受け取れる可能性はあります。
ここでは、その理由を詳しくご説明します。

 

退去要請には正当事由が必要

まず知っておきたいのが、「大家が入居者に退去を求めるには、正当事由が必要だ」ということ。賃貸借契約について定めた借地借家法第28条では、次の内容が明記されています。

「建物の賃貸人による建物の賃貸借の解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない
正当の事由については、建物の賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情や建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、財産上の給付などが考慮される」

上記の法律を根拠にすると、大家は「正当の事由」を挙げることなしに、入居者に退去要請を行うことはできません。大家の主張する理由が「正当の事由にあたるかどうか」は、大家と入居者それぞれの建物を利用する必要性や、これまでおよび現在の状況などを鑑みて、判断されます。

 

「正当の事由」を補完するには「財産上の給付」が必要

自己使用や建物の老朽化などといった一般的な立ち退き理由が、それだけで「正当の事由」と認められることは、ほとんどありません。これは、借地借家法が、賃貸借契約において弱い立場に置かれやすい賃借人の権利を重視する法律であるためです。

ただし、前章の借地借家法第28条の内容にあるように、「正当の事由」と認めるための要素の中には「財産上の給付」が含まれています。
つまり、大家が入居者に立ち退き料の支払い(財産上の給付)を行うことで、立ち退きの「正当の事由」は補完され、立ち退き要請が認められる可能性は高くなるのです。

 

老朽化による退去で立ち退き料を受け取れる可能性はある

建物の老朽化がそれだけで「正当の事由」と認められるかどうかはケースバイケースです。あまりにも老朽化が進み、居住に差し迫った危険が及ぶような状況であれば、「正当の事由」に当てはまる可能性は高いと考えられます。

しかし、居住に差し迫った危険が及ぶような状態ではない老朽化の場合、それだけで「正当の事由」が認められる可能性は低いといえるでしょう。このような状況で立ち退きを進めるためには、大家は立ち退き料(財産上の給付)を入居者に支払って、正当の事由を補完しなければならない可能性が高いです。

よって、建物の老朽化を理由とした退去要請では、入居者が立ち退き料を受け取れる可能性があるといえます。

 

 

どのぐらいの退去費用がもらえるのか

建物の老朽化など、大家都合による立ち退きに際して受け取れる退去費用(立ち退き料)の「相場」は、家賃の6〜12ヶ月分だと言われていますが、これはあくまでも目安です。

大家は立ち退き料の支払いについて法的な義務を持たず、その具体的な計算方法も決められてはいません。
よって、立ち退き料の金額相場について明確に述べることはできず、具体的な金額はケースバイケースだと考えてください。

「立ち退き料がいくら請求できるのか分からない・・・。」とお悩みの方は、参考までに「立退き料増額の実例集」を御覧ください。

また前述のとおり、立ち退き料は正当の事由を補完するものです。
そのため、大家の主張する立ち退き理由が正当の事由として合理的なものであれば、支払われる立ち退き料の金額は少なくなり、反対に理由の合理性がなければ立ち退き料の金額は多くなるという傾向があります。

 

立ち退き料の内訳

一般的に、大家から支払われる立ち退き料の金額は、以下の項目によって決定されます。

・転居費用
・新居契約費用
・家賃差額
・その他補償
・営業利益(※テナントの場合)

立ち退きにあたってまず補償されるべきなのが、引越し代や設備の移転、不用品回収・処理費用などの転居費用です。また、新居の契約にかかる各種費用や、一定期間分の新旧家賃差額も、立ち退き料には含まれます。

家賃差額の補償期間は個別具体的な状況によって異なりますが、数ヶ月〜数年とされるケースが多く、中には10年分の補償が認められたケースも存在します。

さらに、立ち退きにあたっては、その他補償として迷惑料の請求も可能です。この金額はケースによって特に大きく異なり、最終的に内訳の中で最も大きな金額になることも少なくありません。

テナントの立ち退きであれば、店舗の設備工事や営業利益の一部も立ち退き料に含まれるため、支払われる金額はより高額になるでしょう。

 

 

退去の要請を断ることはできるのか?

大家が退去を求めるにあたって「正当の事由」が無い場合には、入居者は大家からの退去の要請を断ることができます。
前述のとおり、大家による物件の自己使用やただの老朽化など、一般的な理由だけで「正当の事由」が認められることは稀です。そのため、「正当の事由」を補完する退去費用(立ち退き料)の支払いがない場合も、入居者が立ち退きを拒否することは可能だと考えられます。

もし、入居者が大家によるどんな退去要請も拒否できないとなると、「もっと高く借りてくれる人がいるから退去してほしい」「気にくわない入居者を退去させたい」といったような不当な退去要請や一方的な賃貸借契約の解約が認められることになってしまいます。
このようなことを防ぎ、賃借人(入居者)の権利を守るために、借地借家法による「正当の事由」は重視されています。「正当の事由」に合理性が欠けている場合、大家側の立ち退き請求は認められません。

 

 

立ち退き交渉の流れ

退去を要請された際には、入居者は大家との交渉をします。その際入居者は、然るべき金額の立ち退き料の支払いを求めることができます。
この交渉は、次の流れで進められます。

①退去を求める通知・説明を受ける
②立ち退き料を交渉する
③退去手続き・立ち退き料の受け取り

各手順を詳しくみていきましょう。

 

【STEP1】退去を求める通知・説明を受ける

賃貸物件からの退去要請にあたっては、入居者はまずその旨を記載した通知を受けることになります。
この通知は、最低でも6ヶ月前までに行わなければならないと法律で定められています。よって、退去予定日まで6ヶ月を切っている退去通知については応じる必要はありません。

通知を受けた後には、大家からの説明が行われることが多いです。この時、立ち退きの理由や条件についてはしっかり聞いておくようにしましょう。
また、この段階で大家側から示された条件には即答せず、一旦保留にし、よく検討するようにしましょう。

 

【STEP2】立ち退き料を交渉する

次に、立ち退き交渉に入ります。
交渉前に、希望の条件とその根拠を用意しておきましょう。例えば引越し見積もり、家賃差額の見積もりなどを事前にを調べ、要求する立ち退き料の根拠となるデータを用意します。これにより、提示した条件に納得してもらえる可能性は高くなります。

この交渉をうまく進めるには、法律の知識や交渉の技術が必要なので、弁護士による代理交渉も検討するとよいでしょう。

 

【STEP3】退去手続き・立ち退き料の受け取り

条件に双方が同意すれば、入居者は退去日に間に合うよう、転居準備を進めます。

立ち退き料は退去完了時に受け取ることが多いです。もし退去費用にあてるため先払いが必要な場合には、交渉時にその旨も大家に掛け合っておくようにしてください。

 

 

大家が退去費用を出さない時の対処法

大家都合で物件からの退去を求められたにも関わらず、大家が退去費用を出さない場合には、次の対処を検討しましょう。

・耐震診断の結果を提示してもらう
・退去要請に応じない
・弁護士に相談する

上記3つの対処について詳しく解説していきます。

 

耐震診断の結果を提示してもらう

老朽化を理由に退去を求められた場合には、その物件の耐震診断の結果を提示するよう、貸主に求めましょう。

建物の老朽化は、築年数だけで決まりません。老朽化の度合いを評価する際、耐震診断の結果も考慮に入れて然るべきです。
よって、退去要請の理由が老朽化の場合は、耐震診断の結果から「本当に老朽化しているのか」を入居者側でも確認する必要があります。

診断の結果、差し迫った老朽化が確認できない場合、当然「正当の事由」は認められません。その場合は入居者は貸主に対し、然るべき金額の立ち退き料の支払いを求めることができます。
また、診断の結果、老朽化が明らかであった場合にも、「なぜ耐震補強で対応しないのか」という点から、退去の拒否を検討することができます。

 

退去要請に応じない

貸主である大家が退去費用を支払わない場合には、退去要請に応じず拒否することも検討しましょう。

要請を拒否すると、大家から裁判にするなどと言われる可能性もありますが、「正当の事由」が十分でなく、「財産上の給付」もなされない場合には、立ち退きに応じる必要はありません。もし裁判になったとしても、その点が争点となるでしょう。

 

弁護士に相談する

物件の貸主から退去要請を受けた時には、交渉によって自身の補償をしっかり主張する必要があります。
しかし、交渉には知識と経験が必要です。一般の入居者で交渉に慣れているという人は稀でしょう。

その場合、法律の専門家である弁護士に代理交渉を依頼するのが、適策だと考えられます。法律の知識と経験に長けた弁護士の手を借りることで、貸主との交渉を有利に進められる可能性は高くなるでしょう。

 

 

まとめ

大家都合での立ち退きでは、入居者は退去費用(立ち退き料)を受け取れる可能性が高いです。
ただし、退去費用の支払いの有無やその金額は、大家が主張する「正当の事由」の合理性によって大きく変わります。老朽化を理由とする場合であれば、よほど危機迫った老朽化ではない限り、立ち退き料なしで「正当の事由」が認められることはほぼないでしょう。

また、大家に退去を要請された場合には、法律の専門家である弁護士への相談を検討しましょう。弁護士に代理交渉を依頼することによって、大家との交渉をより有利に進められる可能性は高くなります。

エジソン法律事務所では立ち退き料増額請求の依頼を承っています。もし「立ち退き料はいくら請求できるのか分からない」「代わりに請求してほしい」という方がいらっしゃいましたら、下記ームページからお問い合わせ下さい。

 

エジソン法律事務所・立ち退き料増額ホームページ:https://edisonlaw.jp/tachinoki/

 

 

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢