コラム
株式会社ATCから立ち退きを求められた時の対処法:立ち退き料について解説

エジソン法律事務所では、「株式会社ATCという会社から立ち退きの通知が来た」との相談を受けたことが、これまでに数回ございます。
株式会社ATCとは不動産の売買・賃貸・仲介を行う開発会社(デベロッパー)で、賃貸物件の入居者に対する立ち退き手続きも担っています。
弊所では、こうした大手デベロッパーに関わる立ち退き料の交渉にも多く携わってきました。
今回の記事では、実際の交渉経験から、株式会社ATCとの立ち退き交渉事例を中心に、立ち退きの適法性の見極め方や対処法について、わかりやすく解説します。
【弊所の事例】株式会社ATCとの立ち退き料交渉
エジソン法律事務所では、株式会社ATC様に対し、何度か立ち退き料の増額交渉を行ってまいりました。具体的な件数としては、下記のとおりです。
交渉による解決・・・2件
訴訟による解決・・・1件
交渉中・・・1件
株式会社ATC様の場合、訴訟に至ったケースもございますので、立ち退き料がスムーズに支払って頂けたという印象は薄いです。
ただ弊所が現状お受けしてきた依頼に関しては、依頼者様に満足いただける請求金額をお支払いいただいております。
こちらが弁護士ということもあり誠実に対応していただけましたが、弁護士でない方が交渉に臨まれる場合、多くの労力を割く必要があると推察されます。
立ち退き理由は老朽化による取り壊しが多い
株式会社ATCをはじめとしたデベロッパーによる立ち退きでは、「老朽化による取り壊し」を理由に、入居者に立ち退きを求める例が多く見られます。エジソン法律事務所へ立ち退き料増額について相談をされる方も、その全体の8割程度が「老朽化」を理由に立ち退きを要請されています。
建物の老朽化については、立ち退きの「正当事由(次の章でご説明します)」として認められる可能性はあります。ただしそれは、老朽化の程度がひどく、居住にあたって差し迫った危険などがある場合です。建物の使用に差し迫った危険のないただの老朽化の場合、それだけで正当事由が認められる可能性は低く、立ち退き要請は認められないことが多いです。
このような場合には、正当事由を補うため、デベロッパーが入居者に立ち退き料を支払うケースが多く見られます。また、入居者がデベロッパー側に対し、立ち退き料の増額交渉を行うことも可能です。
まずは立ち退きの適法性をチェック
建物の老朽化を含む大家都合での立ち退きでは、まずその立ち退きの適法性についてしっかりチェックする必要があります。チェックすべきポイントは、以下の2点です。
下記の2点に注目し違法性がある場合、入居者が立ち退きに応じる必要はありません。
①明渡し日までに6カ月以上猶予があるか
建物などの賃貸借契約について定めた借地借家法には、以下の条文があります。
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。
(出典:e-Gov法令検索 「借地借家法第26条」)
上記の条文を根拠にすると、大家が自己都合で賃貸借契約を解約するには、契約期間満了の最低6カ月前までに入居者に通知を行わなければなりません。通知から物件の明け渡しまで6カ月以上の猶予がない場合、その立ち退き要請は違法であり、立ち退きに応じる必要はありません。
②正当事由が十分か
借地借家法には、以下のような条文もあります。
建物の賃貸人による(略)建物の賃貸借の解約の申入れは、(略)正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
(出典:e-Gov法令検索 「借地借家法第28条」)
つまり、大家が自己都合で立ち退きを求めるには、「正当の事由(正当事由)」が必要なのです。大家側の主張に正当事由が認められない場合、入居者が立ち退く必要はありません。
この条文内の正当の事由は、以下の要素から総合的に判断されます。
・建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
・建物の賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況
・建物の現況
・財産上の給付
財産上の給付とは立ち退き料の支払いのことで、正当事由を補完する役割を果たすものです。
借地借家法は立場が弱くなりやすい賃借人の権利を重視する法律です。そのため差し迫った危険性のない老朽化などの理由では、正当事由が認められる可能性は低く、「立ち退き要請自体が認められない」という結論に至る可能性があります。
その場合、大家側は立ち退き料を支払うことによって正当事由を補完することができます。立ち退き料については、入居者側が交渉によって増額を求めることも可能です。
立ち退き料の考慮要素
立ち退き料として支払われる金額は、ケースによって大きく異なります。そのため、明確な相場はありません。
具体的な金額については、以下の要素を考慮したうえで決定されるケースもあります。
・引っ越し費用(引っ越し代、設備移転費、不用品処分費等)
・新居契約費用(敷金、礼金、保証料、仲介手数料等)
・家賃差額(数カ月〜数年分)
・その他補償(迷惑料等)
入居者が物件から退去するためには、新居を契約し、引っ越しを行わなければなりません。引っ越し代や新居の敷金礼金など、退去に必要な費用は、立ち退き料として補償されるケースが多いです。
また新居の家賃がこれまで住んでいた物件の家賃よりも高い場合には、一定期間分の家賃差額も補償される可能性があります。
どれだけの期間の家賃差額が補償されるかはケースバイケースです。家賃差額でしっかり補償を受けるには、交渉が重要でしょう。
さらに、迷惑料の趣旨で追加の補償が行われるケースもあります。交渉の進め方によっては、この迷惑料が大きな金額になることも少なくはありません。
株式会社ATCから出る立ち退き料の特徴
株式会社ATCなどのデベロッパーから支払われる立ち退き料は、他の案件と比べて高額になる傾向があります。
それは、デベロッパーには立ち退きを進めるための潤沢な資金があるためです。また、立ち退き後に得られる最終的な利益はかなり大きなものであるため、多少高額な立ち退き料を支払ってでも、スムーズに立ち退きを進めたいという思惑もあるでしょう。
したがって、デベロッパーが関与する立ち退きでは、デベロッパー側から提示された立ち退き料ですぐに合意するのではなく、増額に向け積極的に交渉すべきです。交渉により、より手厚い補償を受けられる可能性があります。
実際にエジソン法律事務所でも、大手デベロッパーに対し、立ち退き料の増額交渉を行い、成功した事例が複数あります。
・大東建託(数十件)
・ワールドレジデンシャル(4件)
・株式会社ひなご(3件)
提示された立ち退き料の金額の妥当性の判断や増額交渉に不安がある方は、下記のフォームからご相談ください。
エジソン法律事務所・立ち退き相談フォーム:https://edisonlaw.jp/tachinoki/contact/
立ち退き請求が来た時の対処法
大家やデベロッパーから立ち退き請求が来た時には、以下の方法で対処するようにしましょう。
①すぐに了承しない
②妥当な立ち退き料を調べる
③立ち退き料の交渉を行う
十分な補償を受けるためにも、上記3つの対処は重要です。それぞれ詳しくご説明します。
①すぐに了承しない
立ち退きを求められたときには、物件から退去することをすぐに了承しないようにしましょう。入居者がすぐに立ち退きに合意してしまっては、条件の交渉の余地はなくなり、立ち退き料の増額の可能性も無くなってしまいます。
より良い条件で立ち退くためには、一旦は返事を保留し、交渉の機会を設けることが重要です。
②妥当な立ち退き料を調べる
立ち退き料について交渉するためには、「妥当な立ち退き料はいくらか」を把握する必要があります。「提示された立ち退き料は妥当な金額なのか」、また「増額の余地はあるか」などの点を判断するためです。
ただし、立ち退き料の妥当な金額はケースバイケースであり、入居者自身が金額を算出するのは難しいかもしれません。
(立ち退き料の妥当な金額については、弊所でお調べすることも可能なので、お気軽にご相談ください。)
③立ち退き料の交渉を行う
立ち退きを求められたときには、必ず交渉の場を設けましょう。この交渉の中では、立ち退き料の増額をはじめとした条件を入居者側からも提示し、より良い条件での合意を目指します。
立ち退き交渉をうまく進めるためには、不動産問題を扱う弁護士に代理を依頼することも検討しましょう。弁護士が法的根拠を元に交渉を行うことで、よりスムーズに交渉が進む可能性は高くなります。
依頼する弁護士を選ぶ際には、弁護士事務所のホームページなどから実績や強みをよく確認することが大切です。Googleの評価なども参考にすると良いでしょう。
よくある質問
最後に、立ち退きについてよくある質問とそれに対する回答をご紹介します。
立ち退き料増額の弁護士費用は?
弁護士に立ち退き料の増額交渉を依頼する場合には、弁護士費用が発生します。その相場は以下のとおりです。
・相談料:5,000〜10,000円/1時間
・着手金:10万円〜
・成功報酬:獲得した収入の10〜20%
・実費(日当・交通費・切手代など)(ケースによる)
弁護士事務所によって費用体系や金額は大きく異なります。依頼前には、必ず費用について確認するようにしましょう。
ちなみに、エジソン法律事務所の料金体系は以下のとおりです。
・相談料:初回60分まで0円
・着手金:0円
・成功報酬:「増額幅」に対し35%+税
※成功報酬は立ち退き料の総額ではなく、「弊所が関与した増額幅」からいただいています。
原状回復をする必要はある?
立ち退きの場合であっても、通常の賃貸借契約の解約時と同じように、入居者に原状回復義務が発生します。入居者は、物件を借りたときの状態(経年劣化を除く)に戻して、返却しなければなりません。
しかし、立ち退きの場合、交渉の中で大家に原状回復義務の免除を求めることは可能です。エジソン法律事務所で対応した立ち退き料請求の事例でも、ほぼすべてのケースで、「入居者の原状回復義務を免除する」という形で、大家と合意しています(立ち退き請求が撤回された場合を除く)。
立ち退きを要請された際の原状回復義務については、下記の記事にて詳しくまとめています。
大家都合により退去する際に原状回復費用は負担する必要があるのか?
自分で交渉してもよい?
もちろん大家との立ち退き交渉は、入居者が自分で行うこともできます。弁護士費用を考慮すると、自分で交渉したほうが、手元に残る金額が大きくなるかもしれません。
ただ、法的根拠をもとに合理的でスムーズな交渉を行うためには、法律の専門知識が欠かせません。また交渉で合意できず訴訟へ発展した場合の対応も、入居者自らが行うのは困難でしょう。
より負担なく、また訴訟の可能性も考えて手続きを進めるためには、立ち退き交渉は弁護士に依頼するのが安心です。
まとめ
株式会社ATCなどのデベロッパーから立ち退きを求められた場合、交渉次第で、受け取る立ち退き料を増額できる可能性があります。十分な補償を受けるためにも、立ち退きに際しては、すぐに了承せずに立ち退き交渉の場を設けるようにしましょう。
また、立ち退き交渉にあたっては、弁護士に代理交渉を依頼することをおすすめします。これにより、交渉が円滑に進む可能性は高くなり、また入居者自身の負担も軽減されるためです。
エジソン法律事務所では、立ち退き料の増額請求の依頼を受け付けています。
初回相談料は、60分無料です。大家やデベロッパーから立ち退きを要請されたという方は、まずはお気軽にご相談ください。
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢