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【大家が立ち退き料を払ってくれない】立ち退き料の支払い義務等を解説

コラム/[更新日]2025年8月20日

【大家が立ち退き料を払ってくれない】立ち退き料の支払い義務等を解説

大家都合での賃貸物件からの立ち退きでは、賃借人は大家から立ち退き料の支払いを受けることが多いです。しかし中には、大家が立ち退き料を支払う意思を見せないケースもあるでしょう。

では、立ち退きにあたって、大家に立ち退き料の支払い義務はないのでしょうか。

今回は、立ち退き料の支払い義務の有無と立ち退き料が支払われない理由、対処法などについて詳しく解説します。

 

大家に立ち退き料の支払い義務はあるか?

結論から述べると、大家に立ち退き料の法的な支払い義務はありません。
現在の法律には、大家の立ち退き料の支払いを義務とする条文はなく、また支払う立ち退き料の算出方法も決められていません。

ただし、実際の立ち退き案件では、多くの場合、大家から入居者に対し、立ち退き料が支払われています。その理由は、「正当事由」がなければ立ち退き要請は認められないから、そして立ち退き料が正当事由を補完するからです。

 

立ち退きを求めるには正当事由が必要

「正当事由」とは、入居者の建物利用の必要性を上回るほどの、高い必要性を有する立ち退き理由のことを指します。

大家が入居者に立ち退きを求めるには、正当事由が必要です。これは賃貸借契約に関する法律である借地借家法第28条に定められているものであり、正当事由のない立ち退き要請は法律違反にあたります。

多くの場合、大家の主張する立ち退き理由は、それ単体で「正当理由として十分である」とは認められません。賃貸借契約では賃借人の権利が強く保護されているため、大家の自己使用やただの老朽化などといった緊急性・必要性がさほど高くない理由では、「正当の事由」および立ち退き要請は認められないのです。

そこで、正当事由が認められる可能性を高める役割を果たすのが、立ち退き料です。

 

正当事由は立ち退き料で補完可能

先述した借地借家法第28条では、「正当の事由」の判断には「財産上の給付」も考慮される、と記されています。
この「財産上の給付」とは立ち退き料の支払いのことです。

つまり、大家が入居者に立ち退き料を支払えば、立ち退きの必要性が十分とは言えなくとも、その請求が認められる可能性があるのです。

そのため、大家が主張する立ち退き理由と大家が支払うべき立ち退き料の間には、次の関係性が成り立ちます。

立ち退き理由が「正当事由」として弱い場合、支払うべき立ち退き料の金額は上がる
立ち退き理由が「正当事由」として強い場合、支払うべき立ち退き料の金額は下がる

立ち退き料は、正当事由としての立ち退き理由の強さを補完します。そのため、理由の強弱によって支払うべき立ち退き料の金額も変わるのです。

 

 

大家側が主張する立ち退き料を支払わない理由

立ち退きにあたって立ち退き料を支払わない大家がよく主張する理由には、次のようなものがあります。

・正当事由がある
・6カ月以上前に通知した
・立ち退き料を支払わなくていい契約になっている

これらは立ち退き料を支払わない理由として有効なのか、順にご説明します。

 

1 正当事由がある

大家が立ち退き料を支払わない理由としてまず考えられるのは、大家が自身の主張する立ち退き理由を「正当事由」にあたると考えているケースです。

通常「正当事由」は、「大家が求める立ち退きの必要性」「入居者の建物利用の必要性」「建物の利用状況や現況」などを踏まえて判断されます。しかし、賃借人の権利が強く守られる現法では、「入居者の建物利用の必要性」を「大家が求める立ち退きの必要性」が上回ることは稀です。
よって多くの場合、大家の主張する立ち退き理由は、それだけで「正当の事由」があるとは認められません。
そのような中で「正当の事由」および立ち退き要請を成立させるには、立ち退き料による「正当の事由」の補完が必要です。

このように、大家が自身の主張を「正当の事由」であると考えていても、立ち退き料の支払いなしにはそれが認められない可能性が高いのです。

よって、大家が「正当の事由」があることを理由に、立ち退き料の支払いは必要ないと一方的に主張してきても鵜呑みにしないようにしてください。

 

2 6カ月以上前に通知した

立ち退き料の支払いを拒む大家の中には、「6カ月以上前に通知したから立ち退き料を支払わない」と主張するケースもあるようです。

結論から言うと、この認識は間違いです。立ち退き要請時の6カ月以上前の通知は法律で定められたものですが、この通知義務と「正当の事由」および「立ち退き料の支払い」は別の問題になります。

例え6カ月前に通知していても、立ち退き要請にあたっては「正当の事由」が必要であり、その多くの場合で「立ち退き料の支払い」があります。

 

3 立ち退き料を支払わなくていい契約になっている

物件を借りる際の賃貸借契約に、立ち退き料を支払わないという内容が盛り込まれている場合もあります。しかしこのような場合であっても、借地借家法第30条を理由にすれば、立ち退き料を請求できる可能性はあります。

借地借家法第30条では「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」旨が定められています。つまり、「立ち退き料を支払わない」という入居者に不利な特約は、無効とできる可能性が高いのです。

契約内容を理由に立ち退き料が支払われない場合には、この条文を理由にした立ち退き料の交渉を検討しましょう。

 

 

立ち退き料の「相場」

立ち退き料の「相場」は、よく「家賃の6~12ヶ月分」と説明されることが多いですが、これは実務経験上、誤りです。

過去の立ち退き料請求例を見ると分かりますが、実際の立ち退き料の金額はケースバイケースです。大家が主張する立ち退き理由の強弱や入居者側の物件使用の必要性によって、支払われるべき立ち退き料の金額は変わります。

また、店舗や事務所の賃貸物件からの立ち退きの場合、立ち退き料はより高額になる傾向があります。店舗や事務所の場合、内装や設備の復元・新設や移転による営業損失の補填なども補償対象となるためです。

立ち退き料の算定方法はこちらの記事でまとめています。>>

 

立ち退き料がもらえないケース

次のようなケースでは、立ち退きを求められた入居者は立ち退き料をもらえない可能性が高いです。

・入居者に契約違反がある場合
・定期建物賃貸借契約の場合
・物件の使用に深刻な危険が発生した場合
・賃借する前から設定されていた抵当権に基づき物件が競売にかけられた場合

上記4つのケースについて詳しくみていきましょう。

 

ケース1 入居者に契約違反がある場合

入居者に賃貸借契約の契約違反がある場合には、立ち退き料の支払いは期待できません。
例えば、「家賃の滞納が続いている」「ペット禁止の物件でペットを飼っている」「騒音・異臭などで近隣に迷惑をかけている」「許可なしに部屋を改造している」などの場合です。

このような悪質な行為があった場合、大家は契約違反を理由に賃貸借契約の強制解除を行うことができます。当然、この強制解除にあたって立ち退き料が支払われることはありません。

 

ケース2 定期建物賃貸借契約の場合

定期建物賃貸借契約とは、契約期間満了時に更新しない旨をあらかじめ定めた契約形態のことです。入居者は契約時に契約期間満了時の立ち退きに合意しているため、その立ち退きにあたって金銭が支払われることはありません。

詳しくは「建物の老朽化により定期借家契約に切り替えられた!?」にて紹介していますが、大家側は立ち退きを目的に定期借家契約に切り替えさせようとすることがあります。注意しましょう。

 

ケース3 物件の使用に深刻な危険が発生した場合

物件の使用に深刻な危険が発生した場合、それは立ち退き料なしで「正当の事由」として認められる可能性があります。

ただし、ただの老朽化や欠陥程度で「正当の事由」が認められることはありません。建物が崩壊する可能性があり、居住に著しい危険が及ぶ場合などにおいて、その程度が具体的に証明された場合に限り、「正当の事由」が認められ、立ち退き料なしでの立ち退き要請が可能になることがあります。

 

ケース4 賃借する前から設定されていた抵当権に基づき物件が競売にかけられた場合

競売によって変わったオーナーから立ち退きを求められた場合、新オーナーの有する権利よりも優先度の低い賃借権に基づく入居者は、その物件から退去しなければなりません。この場合、優先度の高い権利を持っている新オーナーがわざわざ入居者に立ち退き料を支払うことは考えにくく、多くの場合、入居者は立ち退き料なしに退去することになります。

 

 

大家が立ち退き料を支払わない場合の対処法

大家が立ち退き料の支払いの応じない場合、入居者は次の対応を検討するようにしてください。

 

1 すぐには退去要請に応じない

立ち退き料をはじめとした大家の条件に納得できない場合、物件からの退去要請にすぐに応じる必要はありません。条件に納得できていないにも関わらず速やかに退去してしまっては、大家から立ち退き料を受け取れる可能性はなくなってしまいます。

大家が立ち退き料を支払わない場合には、まず退去要請を拒否し、立ち退き交渉を申し出ましょう。
そして入居者は、この交渉で「正当の事由」と「財産上の給付」を根拠に立ち退き料を請求するようにしてください。

 

2 弁護士に相談する

大家に立ち退き料の支払いを求める交渉では、法律の知識や交渉の技術が必要になります。とはいえ、一般の入居者がこのような交渉に慣れているということはまずないでしょう。

そこで検討すべきなのが、法律の専門家である弁護士への相談です。
弁護士に相談すれば、然るべき助言を受けられるほか、代理交渉も依頼することができます。弁護士が交渉を行えば、「正当の事由」に基づいた適切な金額の立ち退き料を受け取れる可能性は高くなり、入居者本人の負担も軽くなるでしょう。

ただし、弁護士にはそれぞれ得意分野があります。立ち退きについて相談する場合には、不動産問題に強い弁護士を選ぶようにしましょう。

 

 

まとめ

立ち退き要請時の立ち退き料の支払いについて、大家に法的義務はありません。
しかし、立ち退きには「正当の事由」が必要であり、立ち退き料はこれを補完する役割を果たします。賃借人の権利を考慮すると、大家の主張する立ち退き理由がそれだけで「正当の事由」と認められることは稀であるため、実質的には立ち退きにあたっての立ち退き料の支払いは必要だと言えます。

大家が立ち退き料を支払わない場合、自身の権利を守るためにも、入居者は交渉にて立ち退き料の請求を行うべきです。この交渉を円滑に行うためには、専門家である弁護士の手を借りることを検討しましょう。

エジソン法律事務所では、立ち退き料の増額請求を承っております。

「提示された金額が妥当かわからない・・・。」などの相談もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 

 

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢