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立ち退き料100万円は妥当な金額?増額・減額されるケース等を解説

コラム/[更新日]2024年8月29日

5.立ち退き料100万円は妥当な金額?増額・減額されるケース等を解説

賃貸物件を住居や店舗等として使用している入居者に対し、大家が退去を求めることを、「立ち退き」といいます。
立ち退きに際しては、大家から入居者へ立ち退き料が支払われるケースがあります。これは、移転にかかる諸々の費用や補償として支払われるものです。また、大家都合での立ち退きを合理化する手段だとも言えるでしょう。

では、賃貸物件から立ち退きを求められた場合、受け取ることのできる立ち退き料の目安や「相場」はどれくらいなのでしょうか。もし100万円を提示された場合、その金額は妥当なのでしょうか。

今回は立ち退き料の相場と増額・減額にかかわる事情について詳しく解説します。

 

立ち退き料とは

立ち退き料とは、賃貸物件を保有する賃貸人(大家)が、その賃貸物件を借りている賃借人(入居者)に対して立ち退きを求める時に支払う金銭のことを指します。
この立ち退き料の金額を算定する際には、次のような費用の金額が考慮されることがあります。

・転居にかかる費用(引越し費用、設備移転費用など)
・新居の契約に必要な費用(敷金・礼金、仲介手数料など)
・新旧家賃の差額(一定期間分)
・その他の補償(迷惑料、店舗の場合は営業利益の補償など)

立ち退き料の支払いは、基本的に大家側の都合による立ち退きに限られます。入居者が家賃を滞納していたり、騒音や水漏れを生じさせていたり、賃貸借契約に違反していたりするなど、入居者側に問題があったことによる立ち退きの場合、立ち退き料は支払われません。

また、立ち退き料の支払いは法律で定められたものではなく、大家に支払い義務があるわけではありません。大家都合の立ち退きだからといって、必ず立ち退き料が支払われるとは限らないのです。
もっとも、立ち退き料の支払いについて触れている法律上の定めは存在します。これについては、次章で詳しくご説明しましょう。

 

立ち退き料の法的根拠

立ち退き料の支払いについて触れている法律は、借地借家法第28条です。この条文では、次の内容が示されています。

【借地借家法 第二十八条 建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件】
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか(略)建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

この法律では、大家が入居者に立ち退きを求めるにあたっては「正当の事由」が必要であること、また「正当の事由」については、大家や入居者の事情だけでなく財産上の給付も考慮されることが定められています。
ここでいう財産上の給付とは、立ち退き料のことです。つまり、立ち退き料の支払いは、立ち退き請求に必要な「正当の事由」を補完する役割を果たすのです。

前述のとおり、大家側に立ち退き料の支払い義務はありません。ただし、立ち退きを求めるのに十分な内容の「正当の事由」が認められるには、立ち退き料を支払いが求められるケースが多いのが実情です。

入居者に立ち退いてもらうための大家側の対応として行われるのが、立ち退き料の支払いです。「正当の事由」が十分備わっていることを示し、また、入居者の心情的にも立ち退きをスムーズに進めることを目的として、大家側から立ち退き料の支払いが打診されることがあります。

 

立ち退き料の「相場」?

住居として使用している賃貸物件の場合、大家から支払われる立ち退き料の金額の「相場」は「賃料の6〜12ヶ月分」程度と言われることがありますが、実際に支払われる金額はケースバイケースであるため、「相場」というものはあるようでないというのが実態です。

また、立ち退き請求に必要な「正当の事由」の程度によって、立ち退き料の金額は次のように変わる傾向があります。

・「正当の事由」が強い→立ち退き料の金額は低くなる
・「正当の事由」が弱い→立ち退き料の金額は高くなる

前述のとおり、立ち退き料の支払いは「正当の事由」を補完する役割を果たします。そのため、「正当の事由」の強弱によって、支払われるべき立ち退き料の金額も上下する傾向があるのです。

 

立ち退き料100万円は正当なのか?

前章でご紹介した事例における「相場」を踏まえると、家賃8万円〜18万円程度の賃貸物件では、賃料の6か月から12カ月という「相場」に当てはめれば、立ち退き料100万円というのはまさに「相場」の範囲内だと考えられます。ただし立ち退き料の金額は、物件の状況や大家の属性、その地域の引越し費用の相場や家賃相場、その他個別具体的な事情の影響を大きく受けるため一概にそれが「相場」だから妥当であるとはいえません。

なお、不特定多数の顧客向けの店舗として利用している賃貸物件の場合、逸失利益の補償や設備工事費、休業補償なども支払いの対象となるため、立ち退き料の金額はより高額になる傾向があり、住居の場合よりも算定が複雑になるといえるでしょう。

 

立ち退き料が増額される可能性のあるケース

立ち退き料の支払いが得られる場合、次のようなケースで立ち退き料の金額の増額が見込める可能性があります。

・入居や更新をしたばかりである
・高齢者であるなど引越しの負担が大きい
・大家の許可を得て入居者負担でリフォーム工事などを行っている

詳しくご説明します。

 

ケース1 入居や更新をしたばかりである

賃貸物件への入居や更新には、費用がかかります。
例えば、新しく物件に入居するには敷金や礼金、仲介手数料などの支払いが必要です。また更新にあたっては、更新料や保険料などを支払わなければなりません。

このような費用を払った直後に立ち退きを求められるというのは、入居者にとっては経済的にも精神的にも負担が大きいものです。これを考慮し、入居直後や更新直後の立ち退き料については、金額が増額される可能性があります。

ケース2 高齢者であるなど引越しの負担が大きい

引越しが入居者にとって大きな負担になる場合にも、立ち退き料の金額は増額されることがあります。入居者が高齢であったり病気であったりするために引越しが著しく難しいケースや、同居している家族の数が多く転居先の物件がなかなか見つからないケースなどがその例です。

このような場合には、バリアフリーのための工事や見舞金などを考慮され、賃料が高額の物件への転居もやむなしと見られる結果の名目で、立ち退き料を上乗せしてもらえる可能性があります。

ケース3 大家の許可を得て入居者負担でリフォーム工事などを行っている

大家の許可を得て入居者の負担でリフォームしている場合にも、そのリフォーム費用分が考慮され、立ち退き料が増額される可能性があります。リフォームにあたって、入居者自身が多額の支出をしているためです。
リフォームを実施した日が立ち退き日から近いほど、立ち退き料は高くなる可能性があります。

 

立ち退き料が低額にとどまるケース

次のようなケースでは、立ち退き料は低額にとどまる可能性があります。

建物が著しく老朽化している
大家自身が居住しなければいけない理由がある

各ケースについて順に解説します。

ケース1 建物が著しく老朽化している

建物が著しく老朽化していて取り壊しや建て替えの必要性が極めて高い場合、支払われる立ち退き料は低額にとどまる可能性があります。なぜなら、著しい建物の老朽化という強い「正当の事由」があるためです。
ここでいう著しい建物の老朽化とは、例えば「柱や天井がボロボロに朽ちており、今にも倒壊する危険性がある」などのケースが該当します。

前述のとおり、一般的には「正当の事由」が強ければ立ち退き料の金額は低くなり、「正当の事由」が弱ければ立ち退き料の金額は高くなる傾向があります。建物の著しい老朽化は、強い「正当の事由」に該当する可能性があるため、補完要素である立ち退き料の額が下がることがあります。

ケース2 大家自身が居住しなければいけない理由がある

大家自身がその賃貸物件に居住しなければならない、明確かつ差し迫った理由がある場合にも、立ち退き料が低額にとどまる可能性があります。
例えば、大家が高齢で介護を受けるために家族との同居が必要になったものの、他に物件を保有していない場合などが、このケースにあたります。

その物件を大家が利用する必要性の強弱は、立ち退き料の額に影響します。
とはいえ、入居者の方がこの必要性の強弱を判断するのは困難でしょう。そのためこのような場合には、弁護士に相談の上、必要に応じて立ち退き料の交渉を依頼することをおすすめします。

 

立ち退き時の注意点

賃貸物件からの立ち退きについては、次の3点に注意しましょう。

・立ち退き料の支払いを書面等で合意する前に物件を明け渡さない
・家賃を滞納しない
・共用部分に私物を置いたり、騒音を出したり等しない

基本的に、入居者が賃貸物件から退去するのは、立ち退き料の支払いについて書面等で合意してから(可能であれば、実際に立ち退き料の支払いを受けてから)です。なぜなら、立ち退き料について合意していないにもかかわらず物件を明け渡してしまえば、大家が立ち退き料を支払う理由はなくなってしまうためです。この場合、後から交渉を行うことも難しいでしょう。

また、家賃の滞納や私物を共用部分に置くこと、騒音を出すこと等もしてはいけないことです。
家賃を支払わないことなどはは賃貸借契約上の債務不履行にあたります。債務不履行が認められる場合、大家側から一方的に賃貸借契約を解除されるおそれがあります。
債務不履行による賃貸借契約解除の場合、立ち退き料は支払われず、もちろん金額の交渉もできません。

 

まとめ

立ち退き料は、賃貸物件からの立ち退きを求められた入居者に対し、大家から支払われることのある金銭です。その金額は、住居として使用している物件の場合、家賃の6〜12ヶ月程度が「相場」といわれることがありますが、「相場」というものはそもそもはっきりせず、実際は個別具体的な事情に応じて決まってくるものです。

一般的には、立ち退きを求める「正当の事由」が強いほど立ち退き料の額は低く、「正当の事由」が弱いほど立ち退き料の額は高くなる傾向があります。よって、建物の老朽化が深刻であったり、大家側の物件使用の必要性が大きいような場合には、立ち退き料の金額が低くなる傾向があります。

ただし、立ち退き料の金額については大家との交渉が可能です。
この交渉にあたっては、入居者の負担を軽減し、交渉成功の可能性を上げるためにも、弁護士への相談や交渉の依頼を検討しましょう。

記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢