コラム
一軒家の立ち退き料の「相場」とは?|賃貸・持ち家のケース等を解説
立ち退きは賃貸物件だけでなく、持ち家でも発生する可能性があります。
立ち退きにあたっては、立ち退き料が支払われることがあります。
では、賃貸物件または持ち家の一軒家に住んでいる場合、支払われる立ち退き料の「相場」はどれくらいなのでしょうか。また、持ち家の一軒家からの立ち退きは、どんな場合に求められるのでしょうか。
今回は、一軒家からの立ち退きについて、立ち退き料の「相場」や交渉のポイントなどを詳しく解説します。
立ち退き料とは
賃貸物件では、大家(賃貸人)が入居者(賃借人)に対し、立ち退きを求めることがあります。また、場合によっては国や自治体が事業計画の推進のため、対象地域内の物件の入居者及び所有者に対し、立ち退きを求めることもあります。
このような場合に、大家から入居者、国・自治体から物件所有者や入居者に対して支払われる金銭が、立ち退き料です。
この立ち退き料は、大家や国・自治体都合で物件所有者や入居者を立ち退かせることに対する補償の意味を持つものといえるでしょう。
賃貸物件の一軒家で立ち退きを求められるケース
賃貸物件の一軒家に入居している場合に、大家都合で立ち退きを求められるケースとしては、次のようなものが挙げられます。
・大家による物件使用のための立ち退き
・物件の建て替えによる立退き
ケース1 大家による物件使用のための立ち退き
大家自身がその賃貸物件を利用するために立ち退きを求めることがあります。その際は、大家側の物件利用の必要性や緊急性が重視されます。例えば、賃貸物件を1軒のみ所有する高齢の大家が家族の介護を受けるためにその物件を利用する場合などであれば、その大家都合の必要性や緊急性は比較的高いと判断されるでしょう。
必要性や緊急性は、立ち退き料の額にも影響します。必要性や緊急性が高いほど立ち退き料の額は低く、必要性や緊急性が低いほど立ち退き料の額は高くなるのが一般的です。
ケース2 物件の建て替えによる立ち退き
物件の建て替えを理由に、入居者に退去を求めるケースも比較的よく見られます。
このようなケースでも、入居者には大家から立ち退き料が支払われることがあります。
ただし、建て替えの緊急性が高い場合には、立ち退き料の額が低くなったり支払われなかったりする可能性もゼロではありません。ここでいう緊急性とは、「老朽化により今にも建物崩壊の危険性がある」「欠陥により今にも建物が倒壊する危険性がある」などといった重大な危険の有無を指します。
持ち家の一軒家で立ち退きを求められるケース
次に、持ち家の一軒家の場合の立ち退きについてみていきましょう。
一軒家を所有して住んでいる場合でも、次のような場合には国や自治体から立ち退きを求められる可能性があります。
・土地区画整理事業の実施
・都市計画道路工事の実施
・都市再開発に伴う再開発組合からの立ち退き請求
・借地上の建物を所有している場合の、土地所有者からの立ち退き請求
それぞれどのようなケースなのかご説明します。
ケース1 土地区画整理事業の実施
土地区画整理事業とは、道路や公園などの公共施設の整備や土地の区画整理によって、その土地の宅地利用増進を目指す事業のことです。
この事業では、行政による土地収用が認められており(都市計画法第69条)、事業推進による物件所有者および入居者に対する立ち退き請求には法的強制力が伴います。
この場合の立ち退きにあたっては、行政から対象地域内の物件の所有者および入居者に対し、立ち退き料が支払われるのが通常です。
立ち退き料の金額算定の際には、次のような費目が考慮されます。
・土地の譲渡対価(土地所有者の場合)
・建物の解体・移転費用(建物所有者の場合)
・新たな建物の建設費用(建物所有者の場合)
・家賃差額など(賃借人の場合)
・引越し費用
・権利自体の補償(所有権・借地権・借家権)など
ケース2 都市計画道路工事の実施
都市計画道路とは、国や自治体の都市計画のもとで建設される道路のことを言います。この計画実施にあたっても、国や自治体から道路建設予定地域内の物件の所有者や入居者に対し、立ち退き請求がなされることがあります。
この場合にも、行政から対象地域内の物件の入居者や所有者に対し、立ち退き料が支払われるのが通常です。立ち退き料の金額算定の際には、土地区画整理事業の場合と同様に、以下のような費目が考慮されます。
・土地の譲渡対価(土地所有者の場合)
・建物の解体・移転費用(建物所有者の場合)
・新たな建物の建設費用(建物所有者の場合)
・家賃差額など(賃借人の場合)
・引越し費用
・権利自体の補償(所有権・借地権・借家権)
・その他生じる損失に対する補償など
ケース3 都市再開発に伴う再開発組合からの立ち退き請求
都市再開発とは、都市再開発法に基づき設立認可を受けた再開発組合による立ち退き請求を言います。この計画実施にあたっては、再開発組合から再開発予定区域内の物件の所有者や入居者に対し、立ち退き請求がなされます。
この場合にも、再開発区域内の物件の入居者や所有者に対し、立ち退き料が支払われるのが通常です。立ち退き料の金額算定の際には、土地区画整理事業や都市計画道路の場合と同様に、以下のような費目が考慮されます。
・土地の譲渡対価(土地所有者の場合)
・建物の解体・移転費用(建物所有者の場合)
・新たな建物の建設費用(建物所有者の場合)
・家賃差額など(賃借人の場合)
・引越し費用
・権利自体の補償(所有権・借地権・借家権)
・その他生じる損失に対する補償など
ケース4 借地上の建物を所有している場合の、土地所有者からの立ち退き請求
持ち家の中には、借りた土地の上に自身の家を建築しているケースもあるでしょう。このような場合、建築時に地主と借主は借地契約を締結しますが、借主は地主から借地からの立ち退きを求められる可能性があります。
借地契約は、地主都合で無闇に解除できないよう定められています。ただし、十分な正当事由が認められる場合には、契約解除が認められることもあります。
この正当事由は、立ち退きの必要性の高さや補償によって判断されます。「単に家族で使いたい」「他の人に貸したい」などという理由だけでは、立ち退きの正当事由は認められません。
例えば、次の点を満たしている場合には、正当事由があると判断される可能性は高いでしょう。
・地主側に土地を売らなければならない理由や土地を自己使用しなければならない理由がある
・地主側で新たな土地や移住のための補償費用を用意することができる
地主都合で持ち家から退去するとなると、借主は大きな経済的・精神的負担を抱えることになります。よって、契約を解除する地主側には、この負担を補償するための立ち退き料の支払いが必要になります。
立ち退き交渉のポイント
大家や地主、自治体などから物件からの立ち退きを求められた際には、すぐに了承するのはおすすめできません。この場合、まずは交渉を行う必要があります。より有利な条件で立ち退くために、交渉手続きは必須です。
立ち退き交渉にあたっては、次の3つのポイントを意識しましょう。
すぐに合意しない
土地価格は不動産会社に調査や査定を依頼する
弁護士に依頼する
上記のポイントについて詳しく解説します。
ポイント1 すぐに合意しない
交渉では、最初に相手側が立ち退き料を提示してくるか、提示無しにまずは立ち退きを進めようとするケースが多いでしょう。立ち退き料価格の提示があった場合は、相手側に有利な価格、つまりもっとも低い価格で提示してきている可能性があります。
よって、交渉にすぐ合意するのはおすすめできません。
提示された条件は一度持ち帰り、よく確認して、次の交渉で自身の要望を明確に提示できるようにしましょう。
ポイント2 土地価格は不動産会社に調査や査定を依頼する
持ち家の立ち退き料は、その土地価格や解体費に大きな影響を受けます。
しかし、国や自治体側が提示する価格は通常よりも低い可能性があります。適切な補償を受けるには、住民自身が価格を調べなければなりません。
よって、適正な土地価格・解体費を把握するためには、不動産会社に調査や査定を依頼するようにしましょう。弁護士に依頼する場合には、弁護士にて必要に応じて調査や査定を行います。立ち退き料については、その調査の結果をもとに価格交渉を進めていきます。
ポイント3 弁護士に依頼する
立ち退き交渉をうまく進めるためには、知識と経験が必要です。しかし、不動産会社や大家はより多くの知識と経験を持っているので、一般の方がこの交渉を進めるには、精神的にも体力的にも大きな負担を強いられるでしょう。
そこで検討したいのが、弁護士による代理交渉です。弁護士に依頼すれば、直接不動産会社や大家と接することなく、よりスムーズに交渉を進めることができ、住民の負担も緩和されます。
また、国や自治体による立ち退きには法的な強制力もあるため、その交渉の難易度はかなり高いと考えられます。難易度の高い交渉で有利な条件を引き出すためにも、立ち退き交渉にあたっては、法律の専門家である弁護士へ依頼しましょう。
まとめ
持ち家の一軒家に住んでいる場合、その住人には公共事業や地主都合によって立ち退きを求められる可能性があります。
立ち退きを求められた場合には、まずは交渉を行わなければなりません。慎重に判断せずに、相手側の要求を全て受け入れてしまっては、十分な立ち退き料を受け取れず、住人は大きな損失を被る恐れがあります。
また、立ち退き料については、相手からの提示価格だけを見るのではなく、自身でも「相場」を調べて適正価格を把握しておくようにしましょう。
十分な立ち退き料を受け取るには、相手との交渉をうまく進めることが大切です。そのためには、法律の専門家である弁護士へ代理交渉を依頼することも検討しましょう。
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢