コラム
借地からの立ち退き料の相場|正当事由や算定方法等を解説
建物所有者の中には、土地は地主から借り、その上に自身で建物を建てている場合があります。
この場合建物は自己所有ですが、土地は借地です。よって、地主がその土地からの立ち退きを請求し、それが正当な権利に基づくものである時には、借地人はから退去の上、建物を収去しなければならない可能性があります。
では借地からの立ち退き請求は、どういった場合に行われるのでしょうか。また、その際に支払われる立ち退き料の「相場」はどれくらいなのでしょうか。
今回は借地からの立ち退きの条件や、立ち退き料の「相場」について詳しく解説します。
借地の立ち退き料に「相場」はない
借地からの立ち退きで地主から支払われる立ち退き料には、明確な「相場」というものはありません。
なぜなら、妥当な立ち退き料の金額は、個別具体的な事情に左右され、ケースによって大きく異なるからです。
立ち退き料の金額は、「地主側の有する立ち退きの必要性」や「立ち退きによって被る借地人の負担」の度合い等の影響を受けます。
例えば借地人が借地に家を建てていたり、病気や高齢で転居が困難だったりする場合には、「立ち退きによって被る借地人の負担」は大きいと判断され、立ち退き料の金額は高くなりやすくなります。
一方、借地人が土地をほとんど使っていない、または借地人に他の住居がある場合であれば、負担は小さいとされ、立ち退き料の金額は低くなる傾向にあるでしょう。
「地主側の有する立ち退きの必要性」と「立ち退きによって被る借地人の負担」の度合いは、ケースによって異なります。そのため、立ち退き料の相場を一概に言うことはできないのです。
立ち退き料の金額の決め方については、後述する「借地の立ち退き料の算定方法」にて解説しています。
地主都合での立ち退きを請求できる条件
借地人は借地借家法によって保護されています。よって「高く借りてくれる他の人に貸したい」「家族で使いたい」などといった地主側の事情で、借地人に退去を求めることはできません。
しかし次の3つの条件を満たす場合には、立ち退き請求が認められる可能性が高くなります。
・定期借地契約で期間が満了した
・「正当の事由」がある
・立ち退き料の支払いがある
普通借地契約では、契約期間が満了したからという理由だけで当然に立ち退きが認められることにはなりにくいです。一方で定期借地契約の場合、期間が満了すると借地からの立ち退き請求が認められます。もっとも契約期間の途中での請求が認められることは、基本的にありません。
また普通借地契約の場合、借地借家法では『地主が借地人に立ち退きを求めるには「正当の事由」が必要であり、財産上の給付(立ち退き料)が「正当の事由」を補完する』という旨が定められています。
つまり「正当の事由」の補完事由としての立ち退き料の支払いが、立ち退き請求の条件となるのです。
この「正当の事由」と立ち退き料には一定の関係性があり、立ち退き料の額は「正当の事由」に左右されます。
「正当の事由」と「立ち退き料」の関係性
借地借家法では、地主による立ち退き請求(賃貸借の解約の申入れ)は「正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と定められています。また、ここで記されている「正当の事由」は、財産上の給付、つまり立ち退き料によって補完されることも記されています。
このことから、地主が提示する立ち退きの理由と立ち退き料には次のような関係が生じます。
・立ち退きの理由の正当性が強ければ、立ち退き料の額は低くなる
・立ち退きの理由の正当性が弱ければ、立ち退き料の額は高くなる
例えば地主が「その土地しか保有しておらず、どうしてもその土地を使用すべき理由がある」というような場合等には「地主側の有する立ち退きの必要性が高い」として、妥当とされる立ち退き料の金額は低くなりやすくなります。
他方で地主が他にも土地を所有していたりする場合には「地主側の有する立ち退きの必要性」は低いとして、立ち退き料の金額は高くなりやすくなります。
立ち退きの理由はケースバイケースで、理由の強度もそれぞれ異なります。そのため正当の事由を補完する役割を担う立ち退き料の金額も、ケースによって異なるのです。
地主都合での立ち退きを拒否できるか?
地主都合の立ち退き請求を拒否することは可能です。
特に地主の提示する「正当な事由」が弱い場合や、借地から立ち退くことで負う借地人のリスクや負担が大きな場合には、立ち退き料の支払いの有無に関わらず、地主は強制的に立ち退きを実施することができません。
実際に地主による借地利用の必要性が低かったり、借地人の転居が著しく困難であったりして、立ち退きの拒否が認められた、すなわち明渡請求訴訟で地主側が敗訴した裁判例は存在します。
借地人はケースによっては立ち退きの拒否という選択肢もあることを知っておきましょう。
借地の立ち退き料の算定方法
借地の立ち退き料の算定では、借地権価格が重要になります。
借地権価格とは、借地権の評価額のことです。住宅として使っている借地も事業用として使っている借地も、立ち退きにあたってはこの借地権価格が立ち退き料の基準となります。
住居用物件
住居として使用している借地の場合、立ち退き料は、借地権価格と地主による「正当な事由」を踏まえて計算します。
この場合の借地権価格は、路線価をもとに決定されることが多いです。それに引越し費用や新しい土地・建物の契約費、賃料差額、仮住まい費などをプラスした価格が、実際に支払われる立ち退き料となります。
この考え方を基準に、「正当な事由」の強弱によって立ち退き料の価格は変わっていきます。
事業用物件
借地を事業用として利用していた場合も、立ち退き料は借地権価格と地主による「正当な事由」を踏まえて計算されます。
ただしこの場合、移転に伴う営業補償や損失補償も考慮されるのが大きなポイントです。例えば、移転による休業中の営業利益や顧客離れによる損失、移転先の新店舗の内装工事費や移転先のお知らせの経費、住所変更の登記手続費用なども、事業用借地の立ち退き料には含まれます。
よって、住宅利用に比べ事業利用の借地の立ち退き料は高額になる傾向にあります。
ただし、住宅利用の場合でも事業利用の場合でも、実際の立ち退き料は双方の交渉によって決定します。もし交渉が決裂すれば、訴訟に発展することもあり得ます。
借地の立ち退きで立ち退き料がもらえないケース
借地の立ち退きでは、立ち退き料が支払われないケースも存在します。それが次のようなケースです。
・借地人に賃貸借契約違反がある
・「定期借地契約」など更新がない契約
・建物がない借地
詳しくみていきましょう。
ケース1 借地人に賃貸借契約違反がある
借地人が賃貸借契約に違反していた場合、地主は借地人に土地を明け渡すよう請求することができます。このような場合の立ち退きは借地人の違反行為によるものであり、地主都合ではないため、立ち退き料は発生しません。
ケース2 「定期借地契約」など更新がない契約
「定期借家契約」とは、契約を更新しないことを前提とした契約のことです。このような更新がない契約では、期間満了時の立ち退きは予め決まっていることであり、その際の立ち退き料は発生しません。
ケース3 建物がない借地
建物を建てていない借地は、借地借家法の適用外となります。駐車場として使っている土地や発電のために使っている土地などがその例です。
このような土地の立ち退き請求では借地借家法の適用がないため、「正当な事由」も「財産上の給付」も必要ではなく、立ち退き料は発生しません。
借地からの立ち退き時には「建物買取請求権」を行使する
借地に建物を建てている場合、立ち退きにあたって借地人はその処分に困るでしょう。
しかし、建物を解体する必要はありません。このような場合には、借地人は「建物買取請求権」を行使することができるためです。
「建物買取請求権」とは、借地の上に建てた建物を地主に買い取るよう請求できる借地人の権利のことです。地主都合の立ち退きにあたってこの権利を行使すれば、地主の承諾なしに、借地人は地主に建物を買い取ってもらうことができます。
よって建物を建てている借地からの立ち退き料を受け取るだけでなく、「建物買取請求権」を行使し地主に建物を買い取ってもらうようにしましょう。
立ち退き交渉のポイント
地主から立ち退き請求を受けた借地人は、自身の希望を踏まえ、交渉を行う必要があります。交渉を行わず、相手の主張をすぐに受け入れてしまうと、十分な補償を受けられない可能性があるためです。
この交渉は、次のポイントを重視して進めるようにしましょう。
ポイント1 借地の必要性を主張する
交渉にあたっては、まず借地の必要性を主張することが大切です。借地人にとっての借地の必要性は、立ち退きや立ち退き料の重要な判断材料となるためです。
借地からの立ち退きによって被るリスクや負担はしっかりアピールするようにしましょう。
また、立ち退き料の交渉については、地主からの提示を待つのではなく、借地人側から請求額を提示することも検討しましょう。積極的に交渉に臨むことで主導権を握ることも、交渉を成功させるためには必要です。
ポイント2 合意内容を書面化する
交渉で合意した内容は、必ず書面にしておきましょう。
書面化しておくべき内容としては、次のような項目が挙げられます。
・立ち退き日
・立ち退き料の支払い日
・立ち退き時の建物や土地と状態(現状のまま・更地など)
・敷金や保証金の返還額とその方法
・前払いされた地代の返還方法
・借地上の建物の買取についての詳細 など
合意内容の書面化は、後々のトラブルを防ぐために有効です。口約束はトラブルの元なので避けるようにしてください。
ポイント3 交渉を弁護士に依頼する
立ち退き交渉を有利に進めるためには、法律の知識や交渉の技術が必要です。よって、専門家ではない借地人本人が思い通りに交渉を進めることは難しいでしょう。
このような法律の絡む交渉は、弁護士に相談し、代理交渉を依頼することをおすすめします。法律の専門家である弁護士の手を借りれば、適切なサポートにより交渉成功の可能性は高くなるでしょう。
立ち退き請求を受けたら、まずは不動産関連の問題に強い弁護士への相談を検討するようにしてください。
まとめ
借地からの立ち退き料に「相場」というものはありません。立ち退き料の金額は、地主が主張する「正当な事由」の強度や立ち退き請求に至る事情によって変わるためです。
具体的な金額は借地権価格を基に算出することになりますが、ケースによって増額されることも減額されることもあると考えてください。
また、立ち退きにあたっては、立ち退き料を納得のいく価格で受け取るだけでなく、「建物買取請求権」も行使するようにしましょう。
ただし、そのためには相手との交渉が必要です。交渉を有利かつスムーズに進めるためには、法律の専門家である弁護士へ相談することも検討してください。
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢