コラム
築40年以上のアパートからの立ち退き|立ち退き料はもらえるか?

賃貸物件からの立ち退きにおいては、その理由が重要視されます。
この理由には様々なものがありますが、中でも多いのが建物の老朽化です。建物の老朽化は、法律的にも立ち退きの理由として認められることがあります。
また、立ち退きに際しては、大家から入居者へ立ち退き料の支払いをすることが合理的と考えられます。
では、築40年を超えるような賃貸物件からの立ち退きの場合でも、入居者は立ち退き料を受け取れるのでしょうか。
今回は、老朽化による立ち退きと立ち退き料について詳しく解説します。
築40年以上でも立ち退き料はもらえる可能性が高い
結論から述べると、「築40年以上のアパートに住んでいる場合でも、大家から立ち退きを求められた場合には、立ち退き料を受け取れる可能性が高い」です。
築40年以上の賃貸物件の場合の立ち退きでは、建物の老朽化がその理由とされることが多いですが、あくまでこれは大家都合にあたります。大家都合の立ち退きでは、補償や協力への感謝の意味を込めて、立ち退いた入居者に立ち退き料が支払われるのが一般的です。次章でご説明する法律の観点からも、この支払いは合理的だと考えられます。
よって、このような条件下で立ち退きを求められた入居者には、大家に対し、立ち退き料の請求を行うことをおすすめします。
ただし、法的な合理性はあるものの、立ち退き料の支払いは法律で明確に決められてはおらず、大家に法的義務はありません。場合によっては、大家が「支払わない」選択をすることも考えられます。
入居者が過剰な金額の請求を行うなど、大家が立ち退きの要請自体をやめてしまうこともあるので、立ち退き料の請求は適正金額内で行うようにしましょう。
大家が立ち退きを要請するには「正当の事由」と立ち退き料が必要
大家が立ち退きを要請するには、「正当の事由」と立ち退き料の支払いが必要になります。ここでは、「正当の事由」の意味と立ち退き料の役割について詳しくみていきましょう。
「正当の事由」とは?
建物や土地の貸し借りについて定めた借地借家法第28条では、賃貸人(大家)が賃借人(入居者)に立ち退きを求めるためには「正当の事由」が必要である旨が記されています。
この「正当の事由」とは、「大家が対象の建物を使用する必要性」を指します。ただしその必要性が「入居者が対象の建物を使用する必要性」を上回らない限り、それは「正当の事由」とはなりません。
つまり、その物件を使用する著しく高い必要性がなければ、大家は入居者へ立ち退きを求めることはできないのです。
借地借家法第28条は、賃貸借契約において立場が弱くなりやすい入居者を保護するために、重要な役割を果たしています。この条文があるからこそ、「気に入らない入居者を退去させる」「建物を高く借りてくれる別の人が現れたから今いる入居者を退去させる」などという、大家による身勝手な立ち退きを防ぐことができるのです。
「正当の事由」を補完する立ち退き料
前述の借地借家法第28条には、「財産上の給付」が「正当の事由」を補完する旨も記されています。
ここでいう「財産上の給付」とは、立ち退き料の支払いのことを指します。大家は立ち退き料を支払うことで、自身の「対象の建物を使用する必要性・正当性」つまり「正当の事由」を補完し、その強度を高めることができるのです。
またこのことから、「正当の事由」と立ち退き料の間では、次の関係性が成り立ちます。
「正当の事由」が弱い→立ち退き料は高くなる
「正当の事由」が強い→立ち退き料は低くなる
「正当の事由」はケースによって異なるため、立ち退き料の金額も個々のケースによって変わると考えると良いでしょう。
ただし、借地借家法では入居者の保護が重視されるため、大家が主張する一般的な立ち退き理由がそれだけで「正当の事由」と認められることはほとんどありません。そのため、多くのケースで、十分でない「正当の事由」を補完するために、立ち退き料の支払いが行われているのです。
老朽化は「正当の事由」として認められるか
築40年のアパートからの立ち退きの場合、大家側が主張する「正当の事由」で最も多いのは、やはり建物の老朽化でしょう。立ち退き料の支払いにおいては、この老朽化が「正当の事由」と認められるかどうかがポイントとなります。
建物の老朽化は「正当の事由」として認められ得るものです。しかし、ただの老朽化では十分な「正当の事由」とはいえません。
例えば、著しい老朽化により、現在その物件に住んでいる人たちに危険が迫っているとします。このような居住を続けることが困難な程の老朽化の場合、立ち退きにあたってはそれが「正当の事由」と認められる可能性は高いでしょう。
具体的には、耐震性能が大きく足りていなかったり、建物がひどく損傷したりしている物件などがこれにあたると考えられます。
しかし、「建物が古くなってきたから建て替えたい・取り壊したい」程度の、居住には問題のない老朽化であれば、それは「正当の事由」としては弱いと考えられます。
そのため、このケースでは、立ち退き料の支払いによる「正当の事由」の補完が必要になるでしょう。
立ち退き料に含まれる費用
立ち退き料の支払いは法律で決められたものではないため、算出方法も決まっていません。具体的な金額は、大家が主張する理由が「正当の事由」にあたるかどうかを加味しながら、大家と入居者が交渉で決めていくことになります。
また、立ち退き料は次の費用項目をもとに決められることがあります。
・引越しに関する費用(引越代、設備移転費、不用品処理費など)
・新居の契約費(敷金、礼金、保証料、仲介手数料)
・新旧家賃差額
・その他補償(迷惑料など)
地域ごとに家賃や新居の契約費には差があることを考えると、地域によっても立ち退き料には差が出ます。
大家に立ち退き料を交渉する際には、これらの項目について地域の相場を算出し、その総額を示すようにしましょう。金額の根拠を示せるようにしておくことで、相手に納得感を持ってもらえる可能性は高くなります。
ここまでご紹介したとおり、立ち退き料の金額はケースバイケースです。一般的には「家賃の6〜12ヶ月分」が目安と言われていますが、立ち退き理由や地域によってはそれより多くなることも少なくなることもあると認識しておきましょう。
立ち退き交渉の注意点
納得のいく条件で立ち退くためには、大家との交渉が重要になります。
ここでは、交渉にあたって知っておきたい注意点を3つご紹介します。
注意点1 立ち退き料や条件は交渉できる
まずは、立ち退き料や立ち退きにあたっての条件は交渉できるということを知っておきましょう。
大家からの立ち退き要請に慣れているという人はほぼいません。そのため、一方的に立ち退きを求められた際にも「そういうものなのかな」と受け入れてしまう入居者も一定数いるでしょう。
しかし、立ち退きは入居者にとって金銭的に、そして精神的・体力的にも大きな負担となるものであり、それに対する補償はきちんと受けるべきです。また、立ち退き条件も入居者側の都合を優先した内容で決めてもらうべきでしょう。
そのためには、交渉で立ち退き料や条件についてしっかり主張することが大切です。交渉を面倒に感じたり不安に思ったりする方もいるかもしれませんが、自身の生活のためにも、交渉には力を入れるようにしてください。
注意点2 合意書の内容は確認して署名する
立ち退き交渉では、合意した内容は必ず合意書に記載する必要があります。口約束だけで済ませてしまうと、後から「言った・言わない」のトラブルに発展する恐れがあるためです。
この合意書は大家側が作成することが多いですが、合意書への署名時には、必ずその内容をよく確認するようにしましょう。交渉の内容が正しく反映されているか、合意していない内容が付け加えられていないか確認しておくことは、自身の生活や補償を守るために非常に重要です。
合意後は、合意書の内容に従って、退去の準備を進めましょう。
注意点3 交渉が決裂すると訴訟になる可能性がある
話し合いを重ねても互いの主張が折り合わず、交渉が決裂してしまった場合には、大家が訴訟を申し立てる可能性があります。
訴訟に発展しても、入居者が立ち退き料を受け取れる可能性はあるものの、訴訟に対応するにはかなりの労力と費用が必要になります。これを避けるためには、なるべく交渉を成立させることが大切です。そのためには、大家側に対するある程度の譲歩も検討すべきでしょう。
また、大家によっては立ち退き料の支払いを避けるため、「立ち退きに合意しないと訴訟を起こす」などと、訴訟提起を交渉の切り札にするケースも見られます。この場合、本当に訴訟を起こす気なのか、交渉の切り札として発言しているだけなのか、見極めることも重要になります。
立ち退き交渉をスムーズに進めるには
立ち退き交渉をスムーズに進めるためには、不動産問題に携わった実績の豊富な弁護士の手を借りることが効果的です。
弁護士に依頼すれば、法的知識と経験から「正当の事由」を正しく判断し、大家に適切な金額の立ち退き料を求めることができます。また、その他の条件についてもうまく交渉し、スムーズに合意へと導くことも可能でしょう。
さらに、弁護士が間に入ることで大家の態度が軟化することも考えられます。
弁護士への依頼については、ハードルが高いと感じる方もいるかもしれません。しかし、弁護士が付けば、慣れない立ち退きへの不安や負担は軽減され、交渉を有利に進められる可能性も高くなります。
依頼には費用がかかりますが、複数のメリットがあることを考えると、立ち退きにあたっての弁護士への相談は、理にかなっていると言えるでしょう。
まとめ
立ち退きにあたって立ち退き料を受け取れるかどうかは、大家が主張する理由が「正当の事由」にあたるかどうかによって異なります。
築40年以上のアパートの老朽化による立ち退きでは、入居者に危険が迫っているような場合であれば、立ち退き料が発生しない可能性はあります。しかし、ただの老朽化で居住に問題のない場合であれば、それは「正当の事由」としては弱く、入居者にはそれを補うための立ち退き料が支払われて然るべきだと考えられます。
また、納得いく立ち退き料を受け取れるかどうかは、交渉がその結果を左右します。
交渉をより有利かつスムーズに進めるためには、法律の専門家である弁護士への相談を検討しましょう。
エジソン法律事務所では、立ち退きの増額交渉に関する無料相談を承っております。ぜひご活用下さい。
エジソン法律事務所・立ち退きホームページ:https://edisonlaw.jp/tachinoki/
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢