コラム
賃貸のシロアリが原因で立ち退きを求められたら:引っ越し費用はいくら?

賃貸物件において、大家から立ち退きを求められる理由は様々です。例えば「老朽化した建物を取り壊したい」「自分(大家)の家族に部屋を使わせたい」など。中には、建物のシロアリ被害を理由に立ち退きを求めるケースもあるようです。
では、シロアリ被害を理由にした立ち退き要請は法的に認められるのでしょうか。またその場合、立ち退き料はどれくらいの金額になるのでしょうか。
今回は、シロアリ被害による立ち退きの正当性や立ち退き料、対処法などについて、わかりやすく解説していきます。
立ち退きの必須条件
そもそも、賃貸人が賃借人に立ち退きを求めるには、次の2つの条件を満たす必要があります。
①6ヶ月以上の猶予期間
②十分な正当事由
それぞれどのようなことを指すのか、詳しくみていきましょう。
①6ヶ月以上の猶予期間
賃貸物件の貸し借りについては、借地借家法が適用されます。この法律には、次の旨が記載されています。
建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。
(出典:e-Gov法令検索 「借地借家法第26条」)
この条文を根拠にすると、大家が入居者に退去を求める際には、最低でも契約期間満了の6カ月前までに通知を行う必要があります。通知から退去まで6カ月以上の猶予がない場合、その要請は法的に認められないため、入居者が立ち退きに応じる必要はありません。
②十分な正当事由
借地借家法では、大家都合の立ち退きについて、以下の旨も記載されています。
建物の賃貸人による(略)賃貸借の解約の申入れは、(略)正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない
(参考:e-Gov法令検索 「借地借家法第28条」)
大家が入居者に立ち退き要請を行うことができるのは、「正当事由」が認められる場合だけです。この正当事由とは、以下の要素を総合的に勘案して判断されます。
・賃貸人・賃借人が建物の使用を必要とする事情
・賃貸借に関する従前の経過
・建物の利用状況と現況
・財産上の給付(立ち退き料)
「賃貸人が建物の使用を必要とする事情」としては、建物の老朽化や自己使用などが考えられますが、これらの事情だけでは、立ち退き要請は認められにくいでしょう。なぜなら、借地借家法は賃借人の権利保護を重視する法律であり、ただの老朽化や自己使用では、大家側の「建物を必要とする事情」の必要性・緊急性は比較的低いと判断されるためです。
ただし、大家側の主張する立ち退き理由やその他の要素が正当事由として十分でない場合には、入居者に適切な金額の立ち退き料を支払うことで、大家は正当事由を補完することができます。
シロアリ発生は正当事由になる?
ここで多くの方が疑問に思うのが、「シロアリ被害は大家側の正当事由になるのか」という点です。
結論から言うと、被害の状況を示す客観的な証拠がなければ、シロアリ被害が立ち退きの正当事由として十分であると認められる可能性は低いと考えられます。
シロアリの被害が立ち退きの正当事由として認められるためには、大家側は下記のような証拠を揃える必要があるでしょう。
・専門業者によるシロアリ調査の報告書
・被害の写真・動画
・建築士による倒壊リスクの診断書
・修繕費用の見積もり 等
上記のような証拠がなければ、シロアリ被害が「建物の利用が不可能になるレベル」なのか「簡単な修繕で事足りるレベル」なのか、客観的に判断することはできません。ただ単にシロアリが発生した旨を口頭で伝えるだけでは、立ち退きの正当事由としては不十分なのです。
立ち退きの正当事由が十分でないと判断される場合には、物件の借主は立ち退く必要がありません。
シロアリ被害を理由に立ち退きを求められた場合は、まずシロアリ被害の状況や立ち退きの必要性がわかる客観的な証拠を大家側に求めましょう。
基本的に大家都合の退去では立ち退き料が支払われる
大家都合による立ち退き要請の場合、入居者に対し立ち退き料が支払われるケースが多いです。既にご紹介したとおり、老朽化や自己使用といった大家の主張する一般的な立ち退き理由が、それだけで正当事由であると認められる可能性は低いためです。
大家がそれでも立ち退いてほしいという場合、立ち退き料(=財産上の給付)を支払うことで、大家は正当事由を補完することができます。
ただし、入居者側に重大な契約違反があるような場合には、立ち退き料は基本的に支払われません。立ち退き料なしでも、大家は契約違反を理由に、入居者を強制退去させることが可能です。
立ち退き料の目安
大家都合によって立ち退き要請を受けた場合には、立ち退き料が支払われる可能性が高いです。
とはいえ、立ち退き料については具体的な計算方法が法律で定められているわけではありません。それぞれの事情を総合的に勘案し、ケースごとに適した金額の立ち退き料が支払われます。
つまり、立ち退き料の金額はケースバイケースであるといえるでしょう。
弊所の過去の立ち退き料の増額事例を見ていただくと分かる通り、家賃の数カ月分にとどまることもあれば、数年分を請求できることもあります。
借地借家法第28条には、立ち退きには正当事由が必要であり、その正当事由は立ち退き料によって補完が可能であることが示されています。それを踏まえると、正当事由が弱い場合には立ち退き料は高くなり、正当事由が強い場合には立ち退き料は安くなる傾向があります。
提示された立ち退き料が妥当な金額であるかの判断が難しい場合には、不動産問題を扱う弁護士に相談すると良いでしょう。
立ち退き料の考慮要素
立ち退き料の金額については、以下の要素が考慮されることもあります。
・引っ越し費用(引っ越し代、設備移転費、不用品処分費等)
・新居契約費用(敷金、礼金、保証料、仲介手数料等)
・家賃差額(数カ月〜数年分)
・その他補償 例:慰謝料、営業損失等
立ち退き要請を受けて賃貸物件から退去するためには、引っ越しや新居の契約が必要です。これらの手続きに必要な費用は、当然立ち退き料によって補償されるべきでしょう。
また、退去した物件よりも新居の家賃が高い場合には、家賃差額も考慮要素となります。どれだけの期間の家賃差額が補償されるかはケースバイケースですが、場合によっては数年分の補償を得られる可能性もあります。
さらに、立ち退き料にはその他の補償(慰謝料など)が追加で支払われることも多いです。交渉次第では、この部分が最も大きな金額になるケースも少なくはありません。
退去するのがテナントであれば、内装工事の費用や立ち退きによる休業に伴う営業損失なども、補償対象となります。
シロアリが原因で立ち退き請求を受けた際の対処法
シロアリ被害を原因に大家から立ち退きを求められたときは、以下の方法で対処することをおすすめします。
①すぐに引っ越し先を決めて契約しない
シロアリ被害を理由に大家から立ち退きを求められた場合、すぐに新たな転居先を決めて契約することは推奨されません。(倒壊のリスクが高い場合を除く)なぜなら、一度転居先と契約してしまうと、現在の住居と新居の両方の家賃を支払わなければならない期間が発生し、結果として経済的な負担が増してしまう可能性があるからです。
立ち退き料を受け取ったとしても、この二重家賃によって、かえって損失を被るケースも少なくありません。
確かにシロアリ被害や建物の老朽化が深刻で、倒壊の危険が差し迫っているような状況では、安全確保のために速やかに退去することも考える必要があります。
しかし、現時点で建物の倒壊リスクが高くない場合は、焦って転居先を契約するのではなく、賃貸物件検索サイトなどを活用しながら候補物件をリサーチする程度にとどめておくのが賢明であると言えるでしょう。
②すぐに立ち退きに承諾しない
大家に立ち退きを求められたからといって、すぐに物件からの退去を承諾することも、おすすめはできません。
立ち退き料は、入居者に迅速に立ち退いてもらうために支払われるものです。最初から入居者が立ち退きを承諾している状況では、立ち退き料が支払われなかったりその金額が十分でなかったりと、十分な補償が行われない可能性があります。
立ち退きを求められた場合には、一度返事を保留し、その後の交渉を通して、大家側からより良い条件を引き出すことが大切です。
この交渉では、後々のトラブルを避けるためにも、交渉の経過や合意内容をボイスレコーダーや書面で残しておくようにしましょう。
③弁護士に相談する
大家から立ち退きの通知が送られてきたときには、弁護士へ相談することも検討しましょう。
賃貸物件からの立ち退きでは、正当事由の有無が重要な争点となります。立ち退き問題を扱った実績が豊富な弁護士であれば、大家が主張する正当事由を正しく判断し、交渉によって適切な立ち退き料の支払いを引き出すことが可能です。弁護士の交渉により、大家側が提示していた立ち退き料をさらに増額できるケースも珍しくはありません。
また、弁護士に代理交渉を依頼することは、時間的・精神的な負担軽減にもつながります。
しっかり補償を受けるため、また負担を軽くするために、弁護士への依頼は有効なのです。
立ち退き問題の相談先や弁護士の選び方については、「立ち退きを要求された時の4つの相談窓口:弁護士の選び方や費用を徹底解説」もご確認ください。
よくある質問
最後に、賃貸物件からの立ち退きに際してよくある質問とその答えをご紹介します。
原状回復は必要ですか?
賃貸借契約では、入居者は退去時に部屋を借りたときの状態(経年劣化を除く)に戻さなければなりません。これを、原状回復と呼びます。
大家都合で立ち退きを求められた場合でも、この原状回復義務がなくなることはありません。壁に釘穴を開けていたりフローリングに目立つ傷がついていたりする場合、入居者はその修繕費用を負担する必要があります。
ただし、立ち退き交渉において原状回復義務をなしにするよう大家に交渉することは可能です。早く立ち退いてもらいたいという思いから、大家が原状回復義務の免除に合意する可能性は、決して低くはありません。
実際にエジソン法律事務所では、お引き受けしたほとんどの事例において、原状回復義務の免除で合意しています。
「立ち退き時に原状回復義務を免除する方法」に関しては、下記の記事を参考にして下さい。
大家都合により退去する際に原状回復費用は負担する必要があるのか?
新しい住居との家賃差額は請求できますか?
前述のとおり、現在の家賃よりも引っ越し先の新居の家賃の方が高い場合には、その家賃差額は立ち退き料として支払われることがあります。
ただし、何カ月・何年分の家賃差額を補償してもらえるかはケースバイケースです。なるべく長期間の補償を受けるためにも、交渉は重要でしょう。
敷金は戻ってきますか?
立ち退きによる賃貸物件からの退去であっても、通常の退去と同様に、敷金は返還されます。敷金の返還は民法で規定されていることであり、大家は立ち退き料とは別に、必ず敷金を入居者へ返還しなければなりません。
ただし、滞納した家賃などがある場合には、その金額は敷金から差し引かれることになります。
「敷金が返還されるケース・されないケース」については、下記の記事で詳しく解説しています。
まとめ
シロアリ被害によって建物使用に差し迫った危険がある場合であれば、正当事由が認められる可能性はあります。ただし大家は、シロアリ被害の状況を示す証拠を提示する必要があるでしょう。
立ち退き問題に際して正当事由は重要ですが、それを正しく判断するには専門知識や経験が必要です。正当事由を正しく判断し適切な立ち退き料を請求するためにも、立ち退き問題は弁護士へ相談するようにしましょう。
エジソン法律事務所では、立ち退き料の増額請求の依頼を受け付けています。
多くの実績を持つ弁護士が、完全成功報酬制で交渉をはじめとした手続きを手厚くサポートします。
相談料は初回60分間無料ですので、個人・法人問わずまずはお気軽にご相談ください。
立ち退き無料相談・お問い合わせフォームはこちら:https://edisonlaw.jp/tachinoki/contact/
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢