コラム
立ち退き料に迷惑料は含まれる?内訳や交渉のコツを解説

賃貸物件などから退去するよう求められることを「立ち退き」と呼びます。
大家都合による立ち退きでは、賃借人である入居者は、賃貸人である大家から立ち退き料を受け取るのが合理的です。立ち退き料は引越し代をはじめとした複数の項目から成り、その金額は地域の相場などをもとに算出されます。
では、その内訳には、入居者が被った負担に対する迷惑料は含まれるのでしょうか。また、立ち退き料を全く受け取れないことはあるのでしょうか。
今回は、立ち退き料の内訳や受け取れないケースについて詳しく解説していきます。
立ち退き料として、迷惑料を受け取ることはできるか?
結論から述べると、立ち退き料として迷惑料を受け取れることは多いです。ただし、「迷惑料は必ず支払われるのか」「いくら支払われるのか」ということは決まっていません。
そもそも、立ち退き料の支払いに法的な義務はなく、具体的な金額や計算方法も明確に規定されていないためです。
とはいえ、大家都合での立ち退きであれば、大家が引越し代や新居契約費などに迷惑料を上乗せし、立ち退き料として支払うケースは少なくありません。よって、「立ち退き料に迷惑料が含まれることがある」といえます。
立ち退き料としての迷惑料の相場
立ち退き料の一部として支払われる迷惑料には、明確な相場がありません。
迷惑料は、「立ち退きによって入居者が被った精神的・体力的負担に対する補填」や「立ち退きに協力したお礼」として支払われるものです。
そのため、適切な金額はケースバイケースと言えます。
立ち退き料の内訳
次に、迷惑料を含む立ち退き料の内訳についてみていきましょう。
立ち退き料は、次のような項目で構成されます。
・転居費用
・新居の契約費用
・家賃差額
・営業利益(店舗・事務所の場合)
・その他補償(迷惑料)
それぞれどのような費用を指すのか、詳しくご説明します。
転居費用
住んでいた建物から退去するとなると、引越しのための転居費用が発生します。具体的な項目としては、引越し業者への依頼費や設備の移転費用、不用品の処理費用などが挙げられます。
この場合、引越し業者への依頼費は、部屋の広さや住人の数をもとに複数業者から見積もりを取り、その地域や時期の相場を踏まえ、適切な金額を割り出すことになります。入居者の健康状態によっては、引越しの負担を鑑み、金額が上乗せになることもあるでしょう。
また、店舗や事務所の立ち退きの場合も、その移転費用は立ち退き料の内訳に含まれます。店舗やオフィスでは、大規模な設備移転や新しい店舗の内装工事が必要になるため、住宅に比べ、立ち退き料の額はかなり高額になるでしょう。
新居の契約費用
新居の契約には、さまざまな費用が発生します。例えば、新居の契約に必要な敷金・礼金、仲介手数料、保証料などです。これらの費用も立ち退き料には含まれます。
具体的な金額は、その地域での、立ち退く物件と同レベルの物件に対する相場価格を踏まえ、決定されるのが一般的です。
また、店舗や事務所の場合は、新しいテナントの契約費用が発生し、これが立ち退き料として補償されることになります。
テナントの契約費用は、住宅に比べ高額です。テナント契約では、多額の保証料や数ヶ月分の前家賃を支払う必要があるからです。
家賃差額
立ち退き料には、立ち退く物件と新しく入居する物件の家賃差額も含まれます。この差額は、一定期間分を受け取ることが可能です。
例えば、現在の物件の家賃が8万円で新しい物件の家賃が10万円、6ヶ月分の差額補償を受けられるとしましょう。この場合、入居者は12万円を家賃差額として受け取れることになります(家賃差額2万円×6ヶ月)。
どれくらいの期間、家賃差額の補償を受けられるのかは、ケースバイケースですが、その期間は数ヶ月〜数年であることが多いです。
営業利益(店舗・事務所の場合)
店舗や事務所の立ち退きにあたっては、移転により休業を余儀なくされることが多いでしょう。これにより、店舗や事務所は本来得られるはずだった利益を失うことになります。
この移転期間中における営業利益の損失も、立ち退き料には含まれます。その金額は、直近の収支などをもとに算出されることになります。
その他補償(迷惑料)
その他の補償としては、前述した迷惑料が挙げられます。これは、慰謝料や協力費などと呼ばれることもあり、立ち退きに協力したお礼や迷惑をかけたお詫びの意味を込めて、支払われます。そのため、金額はケースによって異なります。
立ち退き料がもらえない、または減額されるケース
立ち退きを要請する大家から入居者への立ち退き料の支払いは、非常に合理的なものです。しかし、次のようなケースでは、立ち退き料がもらえなかったり減額されたりする可能性があります。
・入居者が契約違反や迷惑行為をしている
・定期借家契約の場合
・大家が立ち退きを要請する理由に十分な正当性がある
・借りている物件にほとんど住んでいない
・競売により大家が変わった場合
ここからは、上記5つのケースについて詳しく解説していきます。
ケース1 入居者が契約違反や迷惑行為をしている
入居者が契約違反や迷惑行為をしている場合には、大家から立ち退きを要請されても、立ち退き料を受け取れない可能性があります。例えば、ペット飼育禁止物件でのペット飼育や騒音、水漏れ、部屋の汚損、許可を得ていない改築、家賃の滞納などです。
このような行為は賃貸借契約違反にあたります。そのため、それを理由に大家から契約を解除されて立ち退きが必要になっても、非は入居者にあり、立ち退き料の支払いは発生しません。
ケース2 定期借家契約の場合
定期借家契約とは、あらかじめ契約期間が決められている契約方式です。この契約では、通常の借家契約のように、期間満了時に契約が更新されることはありません。よって、満了時には入居者はその物件から立ち退くことになります。
このような定期借家契約における期間満了の立ち退きは、契約時に入居者が了承しているものです。そのため、立ち退き料が支払われることはありません。
ただし、この場合の立ち退きにおいても、大家による6ヶ月前までの通知は必要になります(契約期間が1年以上の場合)。
ケース3 大家が立ち退きを要請する理由に十分な正当性がある
大家が立ち退きを要請する理由の正当性が高い場合にも、立ち退き料が減額されることがあります。例えば、「建物の老朽化がかなり進行している」「介護のための子との同居が必要になり、唯一所有しているその物件を使用する必要がある」などが挙げられます。
そもそも立ち退き料は、立ち退き理由の正当性を補填するものです。そのため、立ち退き理由の正当性が高いほど立ち退き料の金額は少なくなり、反対に正当性が低いほど金額は高くなります。よって、大家が主張する理由の正当性が極めて高い場合には、立ち退き料が減額される可能性もあります。
ケース4 借りている物件にほとんど住んでいない
借りている物件に入居者がほとんど住んでいないような場合、立ち退きにあたって重視される「居住の必要性」がないと判断され、立ち退き料が支払われなかったり減額されたりすることがあります。これは、物件を別荘として利用していた場合などに発生しやすいケースです。
ケース5 競売により大家が変わった場合
物件が競売にかけられ大家が変わった場合、競売に至る経緯によっては、新しい大家による立ち退き要請に法的強制力が発生することがあります。この場合、立ち退きを要請された入居者は必ずその物件から退去しなければならず、立ち退き料も受け取れません。
ただし、中には入居者のスムーズな退去を促すため、新しい大家が立ち退き料を支払う場合もあります。
また、競売による立ち退きは、抵当権の設定や賃貸借契約の時期によっても、その扱いが異なります。このようなケースについては、一度弁護士に相談し、適切な対応についてアドバイスを受けると良いでしょう。
立ち退き料交渉のポイント
納得いく金額の立ち退き料を受け取るためには、交渉が重要です。大家と交渉を行う際には、次の4つのポイントを意識するようにしましょう。
・立ち退きが必要な理由を確認する
・立ち退きによる不利益を説明する
・合意内容は書面で残す
・弁護士に相談する
各ポイントについてご説明します。
ポイント1 立ち退きが必要な理由を確認する
交渉をうまく進めるためにまず重要なのが、大家側が主張する「立ち退きが必要な理由」を確認することです。
「立ち退きが必要な理由」は、立ち退きの正当性を左右します。そしてその正当性は、立ち退き料の金額に大きく影響します。
また、入居者自身が納得して物件から退去するためにも、大家側の事情の把握は必要でしょう。
ポイント2 立ち退きによる不利益を説明する
立ち退きによって、入居者は不利益を被ることになります。適切な補償(立ち退き料)を受けるためには、その不利益について大家にきちんと理解してもらわなければなりません。
「現在の物件に住み続ける必要性」や「転居の難しさ」など、立ち退きにあたって生じる不利益については、必ず交渉の中で大家に伝え、それに見合った補償を受けられるようにしましょう。
ポイント3 合意内容は書面で残す
立ち退き交渉で合意した内容は、双方の同意のもと、書面で残しておくことが大切です。口約束だけの合意は、後から「言った・言わない」のトラブルに発展してしまう恐れがあるためです。
また、思いがけないトラブルを避けるためには、合意内容だけでなく、一連の交渉の流れについても書面にしておくことをおすすめします。書面を作成することが難しければ、メールでやり取りをしたり、会話を録音したりするなど、後から確認できる形で残すようにしてください。
ポイント4 弁護士に相談する
立ち退き交渉を円滑で有利に進めるためには、弁護士の手を借りることも検討しましょう。
弁護士は、その経験と知識から、交渉技術に長けています。不動産問題の実績が豊富な弁護士であれば、大家が主張する立ち退き理由の正当性を正しく判断し、十分な額の立ち退き料を請求することも可能でしょう。
入居者自身が交渉を行うとなると、その負担は大きなものになります。交渉や法律のプロである弁護士に依頼することで、その負担は軽減することができます。
まとめ
大家から立ち退きを要請された場合に支払われる立ち退き料には、その一部として迷惑料が含まれることがあります。その金額はケースバイケースであり、交渉の進め方によっても変わります。
つまり、迷惑料を含め、十分な立ち退き料を受け取るためには、交渉が重要なのです。
立ち退き交渉をうまく進めるためには、弁護士への依頼を検討しましょう。
弁護士の手を借りれば、大家側から納得いく条件を引き出せる可能性は高まります。また、入居者の負担軽減にも、弁護士による代理交渉は有効です。
記事監修 : 代表弁護士 大達 一賢